Sam Brown
Joe BrownとVicki Brownを親に持つ。お父さんはトップテンヒットを3つも持っていたし、お母さんの名前はバックヴォーカリストとしてあちこちにクレジットされている。そんな音楽的な家庭に育ったSam Brown。その実力は血統書付き、ってことかな。
Stop ('88) | ソロデビュー作。アルバムはチャート4位にまでつけ、表題曲と"This Feeling"というヒットシングルを出した。その表題曲はストリングを配した、Sam Brownのパワフルな声を活かした、アレンジはシンプルながら大仰なメロディーを持つバラード。バンジョーの調べが牧歌的な響きを持つ"This Feeling"はDave Gilmourがギターで参加した曲("I'll be in Love"にも参加)。扇情的なソロを披露する。また、多くの曲でGavin Harrison(ds)とJakko Jakszyk(g)というDizrhythmia組が参加。また"Tea"は1分にも満たない短い歌詞を持つ曲だが…。Sam Brownの声はまるで子供の声のそれ。歌詞の内容も紅茶が好きって言ってるだけで…何か、紅茶のCMでも聞いてるみたいだ。プロデュースは殆どの楽曲で兄のPete Brown(Cream等で活躍した詩人とは別人)とSam Brownの共同名義。お母さんのVicki Brownもバックボーカルであちこちから聞こえ、お父さんのJoe Brownもリードギター等で参加。家族的なアルバムに仕上がっている。そのJoe Brownが参加した"Can I Get a Witnee"(Marvin Gaye等でも有名だが、多分Dusty Springfieldをお手本にしているのでしょう)やアルバム最後の"Nutbush City Limits"(Ike & Tina Turner)と言ったカバーが彼女のルーツと見て良いだろう。そして彼女自身の曲の中でも"Piece of My Luck"や"Ball and Chain"と言った曲は、ディキシーランドっぽいフィーリングやジャズヴォーカル系の曲にも強い影響を受けているのが伺える。 | |
April Moon ('90) | Sam Brownは両親からの影響もあるだろうが、まず、シンガーであろうとしている所に好感が持てる。自作曲も多く手掛けているが、きっちりとオールディーズ等も自分のものにしている。今回はアルバム最後にRonny ShannonのR&Bの名曲"The Way I Love You"を披露している。これは元々は"I never Love a Man, the Way I Love You"というタイトル。Aretha Franklinのバージョンが有名だろうか。前作にもカバーが入っていたが、今作では1曲のみ。但し、そこで選んだのが、このR&B曲、というのが何ともSam Brownらしい。冒頭の表題曲は彼女らしいストレートなポップな佳曲。Billy JoelやE-Street Bandっぽい東海岸っぽいフィーリングを持つ"With a Little Love"、ストリングセクションが女性コーラスグループなどのオールディーズ的な雰囲気を持つ"Kissing Gate"、ソウルフィーリングたっぷりのグルーヴのある"Contradictions"からブルージーな"Once in Your Life"への流れが素晴らしい。アフリカっぽい詠唱の導入部を持つ"Troubled Sould"ではDave Gilmour(Pink Floyd)とのデュエットを聴かせる。タイトル通りのブルージーながら、広がりのある音空間を持つ佳曲。今作では、Richard Newman(ds)、Matthew Seligman(b)、Paul Bangash(g)等が主にバックアップ。プロデュースは前作同様Pete Brown。勿論、父母のJoe、Vicki Brownの両氏も参加。 | |
43 Minutes ('92) | プロデュースはいつものPete Brown。この作品に呼ばれたのがTony Newman(ds)、Herbie Flowers(b)、Jody Linscott(perc.)、Pete Brown(g)にバッキングヴォーカルやストリングカルテット等々。父親のJoe Brownはフィドルで冒頭の"Come into My World"に参加。今作では全てSam Brownの手による楽曲で占められている。それゆえか、非常に生々しく声を最も大切にした作品に仕上がっている。Sam Brownの弾くキーボード類もピアノ、ローデス、ハモンドと言ったもの。そして、リズム隊にパーカッション奏者は渋すぎ…(お父さん人脈か?)。ジャジーな"See This Evil"のような完成度の高い曲を入れるのがSam Brownのアルバムの素晴らしいところだろう。名曲"One Candle"も本作に収録されている。Sam Brownの声を堪能したいのなら、まずはこのアルバムから入るのも良い選択かもしれない。 | |
Box ('97) | ある意味、彼女が持つルーツに戻ったサウンドを聴かせる傑作。オープニングの表題曲が持つアンニュイなムードやラウンジっぽさをも漂わせる。近いニュアンスで続く名曲"Ebb and Flo"(アルバム最後に再びリプライズとして"Bert and Flo"へと繋がる)の緻密なドラムサウンドが秀逸。ロッカ・バラード"I Forgive You"は元Lone Justice(という形容詞が未だに必要かどうかは?だけど)のMaria McKeeとの共作。バラードなんだけどルーツ・ミュージックが持つ力強さを感じさせる力作。言うなれば、Joe Cockerの"With a Little Help from My Friends"を思い起こさせるサウンド。Leon Russell的なピアノ・プレイとオルガンのコンビネーションにゴスペル調のコーラス・アレンジに引き込まれる。"They're the Ones"はちょっとDavid Bowie辺りを思い出させるサイケ・ポップ。"Liberty in Reality"は再びホンキートンクなピアノ・プレイに乾いたパーカッションは何とJim Capaldiによるもの("As the Crow Flies"でもパーカッションで参加)。その"As the Crow Flies"はSam Brown流ブルーズ。オープニングの歌詞"don't mess with life, don't beat around the bush"で決まり。Richard Newman(ds)、Aaron McRobbie(b)、Claire Nicolson(organ)、Pete Brown(g)というバンドラインナップで録音に臨んだ故に出来上がったグルーヴとサウンド。 | |
ReBoot ('00) | 冒頭の"In Light of All That's Gone Before"に聴かれるようにドラム・ループがモダンな雰囲気を出しているが、反対にSam Brownの声とJools Hollandのピアノの音が生々しい。それこそがヴォーカリストSam Brownのプライドだろう。アルバム全編を通して、モダンなプロダクションを施しても、自身の声にはなるべく加工を施さずに、ストレートにSam Brownの声を楽しめる。またSam Brownが全体的にハモンド・オルガンを愛用しているのも特徴だろう。"Heartbeats"はSam Brown流R&Bを更に進化、深化させたナンバー。強力な歌詞を持つ"Let Go Move On"はドラマーRichard Newmanによるナンバー。"Timebomb"は97年に発表されたWill Gibsonの"Pink"に収められていたのと同じ曲。Sam Brownのバージョンは更に力強くガーリーな感じがロックぽさを生み出している。Des Barkusのハーモニカが素晴らしい。"The Key"のオープニング・センテンスの"I was gonna be a brain surgeon, but I never really bothered"というのはお父さんのJoe Brownの口癖だったらしい。"Out of Focus"や"Blood Run Cold"の持つ乾いたグルーヴ感を持つリズム隊も素晴らしい。前作を踏襲しつつも更に進化を遂げた傑作。 | |
Ukulele and Voice 5 Songs… ('05) | タイトルが示す通りの作品。Sam Brownが奏でるウクレレと彼女の声があるだけ。"Kiss of Love"はJools Hollandとの、"Void"はDave Rotheray(Homespun、The Beautiful South)との共作。それ以外は全てSam Brownの作曲によるもの。非常に素のままで生々しく一発録りっぽい感じ。1月に父親の家で録った旨が書かれている。こういう歌を歌えるシンガーはそうそういない。冒頭の"I'll be Here"の口笛は愛嬌。こういう愛らしさが愛おしい、な、と。 | |
Of the Moment ('07) | ミニアルバム"Ukulele and Voice 5 Songs…"を挟んで発表された7年ぶりとなるフル・アルバム。アルバム・タイトルはSam Brownが"O"で始まるタイトルが良い、と言ってファン投票によって決まった。オープニングの"Loveless"からストレートに歌う様が非常にSam Brownらしい、と言えるだろう。Richard Burrantのアコースティック・ギターとSam Brownの声とウクレレとベースのみの"Void"やペダル・スティール・ギターがハワイアンな世界を醸し出す"Over the Moon"は前作のウクレレ・アルバムがあってこその曲だろう。猥雑な雰囲気さえ持つジャズ・ヴォーカル・ナンバーの"Do Right by Her"ではHarbie Flowersがウッド・ベースで参加。"Walk with Me"や"Satellite"はSam Brownの典型的な世界を持つポップでどこかアンニュイな世界を持つ佳曲。ドラムにMike Sturgisの名前が。"Show Me Your Love"も分類するならジャズ・ヴォーカルの類となるのだろう。Sam Brownの声を中心にストリングスのサンプルと静謐なキーボードがバックが浮遊感を増す。アン・ブロンテの"Believe Not Those Who Say"にインスパイアーされたという"Cradle Me in Your Arms"はSam Brownがプレイするアコーディオンの音色がタンゴっぽくもあるが、最後の最後に挿入されたPete Brownのエモーショナルなスライドが効果的に響いている。どんどんその世界観を広げていく様に敬意を抱かずにはいられない。 |
Projects
Homespun "Homespun" ('03) | The Beautiful SouthのギタリストDavid Rotheray(g、b)とSam Brownのコラボレーションの1st。キーボードにTony Robinsonを迎えている。基本的にSam Brownの素直でナチュラルなヴォーカルを前面に出したアコースティック色の強いシンガー・ソング・ライター・タイプのポップス。そこにヴァイオリンやバンジョー、ドラムやパーカッション等が乗る、という感じ。どの曲も馴染みがありそうなメロディーを軸に、リラックスしたムードで全編覆われている。全曲David Rotheray作詞作曲による。Gary Hammond(perc.)、Clare Mactaggart(violin、mandolin、banjo)、Steve White(ds)、Dave Anderson(ds)、Melvin Duffy(pedal steel)、Andy Swift(b)、Matt Hagg(g、organ)、Sally Herbert(violin)が参加。 | |
Homespun "Effortless Cool" ('05) | Homespunの2nd。メンバーは前作とほぼ同じ。Dave Rotheray(g、b)、Sam Brown(vo)、Tony Robinson(key)、Clare Mactaggart(violin、mandolin)、Gary Hammond(perc.)、Melvin Duffy(pedal steel g)を中心にAndy Swift(double b)、Pete Jack(ukulele)、Frankie Banham(sax)、Lucia Rotheray(woodwind、trumpet)をゲストに迎える、という編成。音楽性も前作を踏襲したもので、Sam Brownの声をメインに邪魔にならないように、しっとりとしたラブ・ソングを綴る。それだけに単調にならないように各曲に小技が色々と仕込まれているように聴こえる。"Love will Come Around"のオープニングの広がりようはPink Floyd的でさえある。歌詞も前作同様にDave Rotherayが書いているため、Sam Brownが歌うそれとは違った感が顕著。特に"Whistlestop Blues"あたりは多分、Sam Brownのソロでは聴けないようなラインがある。最後の"You are Here"のみ、作曲がSam BrownとTony Robinson。それ以外は作曲も全てDave Rotheray。 | |
Homespun "Short Stories from East Yorkshire" ('97) | Sam Brown(vo)、David Rotheray(g)、Melvin Duffy(steel g)、Gary Hammond(perc.)、Tony Robinson(brass、key)、Alan Jones(b)、Clare Mactaggart(violin、mandolin)という基本メンバーにEleanor McEvoy(vo、violin、g)が"Lover's Chapel"で、Mary Coughlanが"The Driver"で各々リードヴォーカルを取っているのが特徴だろうか。その他のゲストにDamon Butcher(p)、Andy Swift(double b)、Frankie Banham(sax、flute)、Lucia Rotheray(recorder、trumpet)、Matt Hogg(g)、Guy Rickerby(ds)が参加。カントリーフレーヴァーが基本にあるのは変わらずだが、リードヴォーカルに特徴的なゲストを2曲で迎えているように、前2作よりも装飾が多く、変化に富んでいる作品となった。"The Driver"ではMary Coughlanのしゃがれ声を使ったジャジーな雰囲気を纏った曲。Eleanor McEvoyが歌う"Lover's Chapel"はHomespunらしいアコースティック作ながら、今までの作風とは違い、どこかPaula Cole風なメロディーが印象的。まるでEnyaのような深遠なバックグラウンド・ヴォーカルを擁した変わった歌詞を持つ"First People on Earth"や"Memo to Self"も変わった単語が耳に入ってくるのがDavid Rotherayの世界観の面白いところだろうか。最後のオールディーズっぽい"Rendezvous Roulade"はSam Brown、David Rotheray、Tony Robinsonの共作。ゲストヴォーカリストが歌う2曲はEleanor McEvoyとDavid Rotherayの共作。 | |
Valle Venia featuring Sam Brown "Fragile" ('02) | Leo Philipp SchmidtとJohanna Michelが中心となるアート・デュオValle Veniaの8枚目のアルバム。Sam Brownをヴォーカルに迎えている他にJulie Nickel-Flaksman(cello)、Hakim Lundin(perc.)が参加。ダンス・ビート等を用いながら欧州らしいクラシカルなフレーズが配してあり、そこに力強い伸びのあるSam Brownのヴォーカルが非常にマッチしている。5曲目の"Introduction"(インスト曲)にあるような、時に切り裂くようなギターも入る。少しばかりサウンドがTerje Rypdalを思い起こさせるサウンドだが、あそこまで冷徹さは感じない。リズムなども非常に多彩で工夫が凝らされているのが判る。"Yellow Fields"のチェロ・バージョン(インスト)と表題曲"Fragile"のフランス語バージョンも収録。 | |
Pete Brown "Not before Time" ('08) | Sam Brownの兄弟でSam Brownのアルバム・プロデュースなどでも活躍するPete Brownのデビュー・ソロ。まずは12曲中半分を占めるカヴァーの選曲が凄い。The White Stripesの"My Doorbell"、Nick Loweの"(You're My)Wildest Dream"、Lowell Georgeの"Twenty Million Things"、再びNick Loweの"Cry It Out"(両方ともアルバム"Pinker and Prouder than Previous"から)、"Dark is the Night / Lapsteel Boogie"の前編はBlind Willie Johnsonのゴスペル・ブルーズ"Dark was the Night, Cold was the Ground"から。Allen Toussaint作の"Brickyard Blues"はFrankie Millerの"Play Something Sweet (Brickyard Blues)"と古い曲だけでなく新しい目の所からも選んでいるところがポイントだろうか。このあたりはミュージシャンとしてだけでなく、プロデューサー的視点も含まれているのだろう。残る半数がオリジナルで殆どの曲でSam Brownが共作者としてクレジットされており、アルバムの共同プロデューサーでもある。カヴァーからも判るようにブルーズ色のある楽曲をベースにシンプルなアレンジでヴォーカルの情感を前面に押し出した作風となっている。またMike Sturgis(ds)、Stefan Redtenbacher(b)、Rich Milner(organ)というバンド編成を基本に作られている為、芯が通った作風になっている。"Dark is the Night / Lapsteel Boogie"には父Joe Brownがマンドリンで参加。 |
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