Trouble



Trouble

Psalm 9 ('84)所謂、ホワイト・メタルなる呼び名を初めて呼ばれたのは彼らだったのではないだろうか。聖書からの引用や十字架を見立てたTのロゴ。詩篇9篇9節の文言が裏ジャケに掲載されていた。本作がリリースされた時点では「Trouble」とされていたがデフ・アメリカンからの1作目をリリースする時に同名のアルバムを出すことになり、その時に「Psalm 9」と変更された。冒頭の"The Tempter"からモロにBlack Sabbathを彷彿とさせる重く引き摺るような今で言うドゥーム・メタルそのものの音が出てくる。今でこそスローなグループは珍しくはないものの、当時はその重さ、遅さが非常に際立っていた記憶がある。Eric Wagnerの声質は時にOzzy OsbourneよりもRob Halfordを思わせる。最後にCreamの"Tales of Brave Ulysses"のカヴァーを収録。このカヴァーの選曲からも判るように、サイケデリックという要素も彼らの音を特徴付ける要因の一つであり、特異な存在と目された。06年にDVD入り(デビュー時にTV番組に出演した時の模様)の2枚組で再発された。
The Skull ('85)基本路線は前作同様、ドゥーミーなBlack SabbathやNew Wave of British Heavy Metalの諸作をルーツとしたヘヴィー・メタルなのだが、冒頭曲の"Pray for the Dead"からテンポ・チェンジを多用したり、11分もの大曲"The Wish"に挑んだりとプログレッシブ・ロック的な手法、というよりはIron Maidenあたりに代表されるオーセンティックなヘヴィー・メタルらしいドラマティックな手法で緩急をつけていると言えるだろう。様々なリフが浮かび上がっては次へと移っていく様は正に圧巻。"Gideon"という曲名からも判るように今作でも全曲でキリスト教に強い影響を受けた歌詞が聴ける。Eric Wagnerのヴォーカルは基本的に張り上げるばかりの場面が多く、丁寧さに欠けるのがちょっと勿体無い。エンディングの"The Skull"(確かにスローではあるんだけど)レベルでのヴォーカル・パフォーマンスが全編で聴ければ名盤になっていただろう。再発盤では85年のイリノイでのライブのDVDが付いている。
Run to the Light ('87)リズム隊がRon Holzner(b)、Dennis Lesh(ds)に交代。ドラムの前任者Jeff Olsonは"The Beginning"のキーボードをDaniel Long(key)と共に担当。Daniel Longはオープニングを含めてその他の曲のキーボード全てを担当。キーボードのイントロを用意したり、"On Borrowed Time"のイントロではFosterの"Camptown Races"(草競馬)からショパンの葬送行進曲が出てきたり、楽曲に劇的な要素を加えようとする意図が少なからず読み取れる。オープニング・トラックの"The Misery Shows (Act I)"の歌詞からして「Tell all people every on you meet the answer is LOVE」とヘヴィ・メタル・バンドにしては矢張り一風変わっている(こういった歌詞がホワイト・メタルと言われる所以でもあるのだろう)。曲調も徐々にスピードが上がるが、表題曲のソロや"Born in a Prison"のギターパートように少しばかりIron Maiden辺りの叙情性を思わせる部分なども聴き所。全体的に楽曲にテンポ・チェンジなど仕掛けも多い。
Trouble ('90)Def Americanに移籍して初めてのアルバム。プロデューサーは当然レーベル・オーナーのRick Rubin。ドラムがBarry Stern(元Zoetrope)に変わっている。オリジナル・ドラマーのJeff Olsonはキーボードで参加。ライブの定番曲となる"At the End of My Daze"、オープニングのギターのイントロがN.W.O.B.H.M.あたりを思わせる叙情的なツイン・ギターで始まる"The Wolf"、後のMetallicaあたりがやりそうな"Psychotic Reaction"、ザクザクと切り込むリフが印象的な"R.I.P."、スラッシュ・メタル的な"E.N.D."、ヘヴィーメタルのお手本のような"All if Forgiven"で締め括る本作は正にTroubleの名を世に知らしめた名作だろう。そして、このアルバムを名作たらしめたのが7分にも及ぶ"The Misery Shows (Act II)"。まるでScorpionsのバラードのように叙情的でEric Wagnerのヴォーカルは中低音を中心に歌い込む。アコースティック・ギターの使い方などどこかPink Floyd的な浮遊感も感じる。
Manic Frustration ('92)メンバーは前作と同じ。キーボードにセッション・プレイヤーのRick Seratteを迎えている。ドゥーム/ストーナー・メタルの始祖的な扱いを受けるが、本作では更にグンとスピードがあがる。大陸的なグルーヴ、とでもいうのだろうか。Ron HolznerのベースとEric Wagnerの生々しいヴォーカルから始まる"Come Touch the Sky"や続く"'Scuse Me"などの歌詞からはJimi Hendrixのような言葉遣いが印象的。"Fear"ではエフェクトをかけたヴォーカルにザクザクと切り込む横ノリのギターが心地良い。"Rain"はTroubleが得意としてきたロッカ・バラード。短いアコースティック・ギターの爪弾きから、コブシの効いたEric Wagnerのヴォーカルが聴ける"Tragedy Man"や続く"Memory's Garden"はKing's Xと通じるところがあるサウンド。表題曲"Manic Frustration"では特にスライド・ギターのソロが圧巻。叙情的な"Breathe..."の最後ではDonovan(!!!)の"Atlantis"が出てくる(Barabajagal収録)。こういうセンスがこのグループが他のメタル・グループとは全く違う所以だろう。
Plastic Green Head ('95)ドラムにオリジナル・ドラマーのJeff Olsonが戻ってのアルバム。オープニングの表題曲こそZakk Wyldeがいた頃のOzzy Osbourneを思い出してしまうが、続く"The Eye"でミッドテンポでヘヴィなギター・リフがザクザクと切り込むように鳴る。Troubleカラーをよく出しているサイケデリック・ヘヴィー・ロックの"Flowers"からThe Monkeesの映画「Head」の主題歌"Porpoise Song"(作曲はCarol KingとGeoffrey Goffin)のカヴァーが飛び出す。"Requiem"はTroubleの持つ叙情性を端的に表したロッカ・バラード曲。私の持っているCD(Century Media盤)のインナーに書いてある"Below Me"と"Long Shadows Fall"の歌詞がひっくり返っている。"Tomorrow never Knows"は勿論Beatlesの最も有名なサイケデリック・ソングのカヴァー。最後の"Till the End of Time"はJoe Cockerの"With the Little Help from My Friends"を思わせる佳曲。
Simple Mind Condition ('07)02年から06年の4年間を費やして製作されたリユニオン・アルバム。ベースにThis Tourtured SoulのChuck Robinsonを迎えている。Eric Wagnerのヴォーカルは高音を抑え、中低音で伸びやかな喉を披露している。全体的にオーセンティックなTroubleらしいヘヴィ・メタルが鳴り響く。"Seven"はタイトル通り私小説的な歌詞が印象的。"After the Rain"は叙情的なナンバー。"Arthur Brown's Whiskey Bar"は正にタイトルが指し示すようにサイケデリック色を持つナンバー。ちょっと初期David Bowie辺りを思わせる。疾走感のある表題曲の後に"Immigrant Song"が始まったかと思うとLucifer's Friendの"Ride the Sky"だった。アルバム最後を飾るのはJeff Olsonのピアノが印象的な"The Beginning of Sorrows"で締め括る。インナーのアートワークにはヒエロニムス・ボスの「快楽の園」からのイメージが使われている。本作は05年になくなったBarry Sternに捧げられている。


King's X

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