King's Comin' King's X



King's X

結成時から変わらぬトリオメンバーで今なお精力的に活動するアメリカンロックの良心とでも呼べるグループがKing's X。Ty、Doug、Jerryの3者3様の活動もこれからアップデートしていきながら、その足跡を辿ってみたい。それにしても、このバンドも来日がぁぁぁ。一回来たんだっけ?プロモか何かで。私が東海岸を選んだのはこのバンドと無関係ではない。

Out of the Silent Planet ('88)ミズーリー出身のDoug Pinnick(b,vo)、Ty Tabor(g,vo)、Jerry Gaskill(ds,vo)のトリオによるデビューアルバム。ZZ Topに関わっていたプロデューサーSam Taylorに見出され(Sam Taylorはそのままマネージメントも手掛けることに)、Megaforceと契約。Doug PinnickとJerry Gaskillが初めて会ったのがPetraというクリスチャンロックバンドのコンサートというのだから、そういう方面での歌詞内容も当然ある。オープニングの"In the New Age"は混沌としたサウンドスケープの導入部から、突如へヴィーなリフが切込み、Beatlesを思わせる3声のハーモニーのヴォーカルが被ってくる。そして、R&B、ソウル、ゴスペルに強い影響を受けたであろう力強いDoug Pinnickのヴォーカルが入る。へヴィーバラードの側面を持つ"Goldilox"や"Wonder"は、このバンドの叙情面を端的に表している。"Sometime"と"Far, Far Away"の2曲はトリオとMarty Warrenの共作。それ以外は全てトリオによる作曲。キャッチーでありながらも重さを常に意識している"Power of Love"、"King"、"Shot of Love"はアコギの効果的な配し方やシタールの音が単なるハードロックバンドでないことを伺わせる。軽い名刺代わりにシーンにその名を叩きつけた珠玉の1stアルバム。この音は全米がグランジに席巻される以前にシーンに登場したという事は忘れてはならない。
Gretchen Goes to Nebraska ('89)前作でも見られたインド音楽からの影響を顕著に出した1曲目は前作のタイトルとなった"Out of the Silent Planet"。そして、現在でもライブで重要なポジションを持つ"Over My Head"。ライブでは大体ゴスペル調のヴォーカルによる導入部を演っている。そして、情念の塊のような珠玉のバラード"Summerland"と立て続けに畳み掛ける。Beatles的雰囲気を持つアコースティック曲"The Difference"でインタールード的ブレイクを挟んで、アルバムに緩急を付けている。今作ではTyはシタールのみならず、ダルシマーや木管と大活躍。Sam Taylorもパイプオルガンやピアノで客演。Tyの特徴的なディストーションがかかったヴァイオリンのようなソロは白眉。"I'll never be the Same"は前作でも登場したMarty Warrenとの共作。"Pleiades"はDale Richardsonとの共作。ジャケットのインナーに「不思議のアリス」か「オズの魔法使い」を思わせるような物語が書かれている。
Faith Hope Love ('90)力強いアルバムタイトルが印象的なアルバム。今作ではバンドもSam Taylorと共にプロデュースに関わり、少しずつ成長の兆しが見える。作曲も全てバンド名義。、チェロ、フレンチホーン、ソプラノリコーダー、パイプオルガンを導入。アレンジの拡大を図る。コーラスには弟分のGalactic Cowboysも参加。言うなれば、King's X版"White Album"だろうか?幅広いアレンジやその他の楽器を導入した結果、演奏そのものはハードであるのに対して、出てくるサウンドがシャープさに欠けハードな音が薄れているのも事実。シングルカットされた"It's Love"、"Mr.Wilson"、"I can't Help It"、"Legal Kill" ではTy Taborがリードを取り、"Six Broken Soldiers"ではJerry Gaskillが初めてリードを担当。前作を上回る作品を創り上げるのにトリオ全員で力を合わせた結果がこのアルバムである。またタイトルや歌詞を見ても判るように、前2作までは、クリスチャンがいるロックバンドという感じで、それとなく普遍的な内容のメッセージが挿入されていたが、今作では少しずつ、クリスチャン色が強くなっている感も受ける。
King's X ('92)メジャーのAtlanticへ移籍してから第1弾。再びSam Taylorがプロデュースを手掛け、全曲、作曲クレジットにも名前を連ねる。どこか、キナ臭さを感じるのも確かではある。後にマネージメントを離れるところから、そういった政治的背景の不安定さの中で作られたのは想像に難くない。ジャケットも後にこの頃CCM(コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック)に意図的・戦略的に接近していたと述べられていたように、その辺りのリスナーを意識した宗教色が濃く出ているものとなった。但し、前作が拡散を標榜していただけあって、今作ではメジャーレーベルへの昇格移籍ということもあっただろうが、自分たちの得意なことを思い切りやった、という感じ。Beatles的なハーモニーやストリングアレンジ、ゴスペル風の力強いボーカル、インド音楽からの影響が見られるギタープレイやシタールの使用とKing's Xの魅力が詰まったものとなった。特に"The Big Picture"の出来は秀逸。
Dogman ('94)以前のマネージメントを離れ心機一転、体制も新たに製作された5th。プロデューサーにPearl JamやStone Temple Pilotsなどで活躍したBrendan O'Brianを起用し、時代に即した音に仕上げようとした意図が読取れる。良くも悪くも全体的にまとまりが良く、アルバム総体としては、小粒な印象があるのは否めないが、各曲の出来は秀逸。特に"Don't Care"からの後半の畳み掛けは特筆に価するだろう。そういう意味では、スルメ型アルバム。じっくりと聞き込みたいアルバムだ。Brendan O'Brianの狙いもバンドが持つハードでグランジーな側面を前面に押し出したもの。ただ、バンドが持つ独特のグルーヴがあるお陰でバンド特有の艶のある音は維持している。インナーを見ると1分にも満たない"Go to Hell"のみ歌詞がないのに気が付くだろう。この曲は初期からのレパートリーらしく、歌詞を変えて、今作に収められたらしい。歌詞がないのは、ライブなどで常に何を歌っているか注意を引きつける為に故意に歌詞を掲載しなかったため。最後に初カバーとなるJimi Hendrixの"Manic Depression"は、後から歓声を被せた擬似ライブ仕様で収録。はまり過ぎ。ジャケは4種類用意され、赤以外にも青、緑、黄がある。
Ear Candy ('96)カナダのSherif、Frozen Ghostといったバンドを経てきたArnold Lanniをプロデューサーに迎えてのアルバム。プロデュースはバンドとの共同となっている。"American Cheese"と"Lies in the Sand"はTy Taborとバンドとのプロデュースとなっており、ここで初めてTy Taborのプロデューサーとしての力量がKing's Xのアルバムで披露される。まずは鮮やかなサイケデリック・アートの大御所Alton Kelly(Greteful Deadのアルバム等で有名)によるジャケットに目が行くが、これを見て、タイトル通りのカラフルな"Ear Candy"(耳に甘く、心地よい)を感じるか、または聖地San Franciscoの60年代後期のロックシーンに思いを馳せてみるかは、人それぞれだろう。"The Train"、"(Thinking and Wondering) What I'm gonna Do"、"Sometime"と頭3曲では特にJerryのシンプルでありながら捻りの効いたビートは聴き物。Beatlesの新曲?と思わせる"American Cheese (Jerry's Pianto)"はJerry Gaskillがリードヴォーカルを取る曲第2弾。益々、円熟味を増すKing's X。"Ear Candy"のタイトルは伊達じゃない。
Best of King's X ('97)多分契約消化の為に制作されたと思わしきAtlanticから出されたベスト。1stから5thまで2曲づつ選ばれ、6thのみ3曲収録。全て時系列に並べられておりバンドの変遷が判りやすい作りとなっている。"Ear Candy"からこぼれた曲と思われる96年に録られた3曲"Sally"、"April Showers"、"Lover"と94年Woodstock IIに出演時の"Over My Head"のライブが収録。お馴染みのイントロのヴォーカルパートがここで初めて世界的に披露される。それでもフェス用に短めのバージョンになっている。本来のKing's Xのライブではもっと長く気合いの入ったゴスペル調のソウルフルなオープニングが聴けたはず。真ん中に出てくるメッセージは"Fucked Up"という言葉だけを捉えてどうのこうの言うのは間違っている。Doug Pinnickの話はちょっと衝撃的ではあったけど、言っていることは極々当たり前のメッセージが挿入されているに過ぎない。メッセージの内容は各々で確認して下さい。最後にこのベストで既にTy TaborとDoug Pinnickのソロの予告が他社から出るにも関わらず書かれているのが痛快。
Tape Head ('98)Ty TaborとDoug Pinnickのソロを出した同年、Metal Bladeに移籍してからバンド名義として初めての作品。今作では、プロデュースがTy Tabor & King's Xとなっており、録音スタジオもTy TaborとDoug Pinnickの(ホーム?)スタジオにて行なわれている。何も自分たちのスタジオで録音したから、という訳ではないだろうが、プロダクション面では、相当変化がある。バッキングは隙間を持たせ、ダイナミズムが上がっていて、コンパクトな曲作りに焦点が当てられたようだ。その為、どの曲もライブ・フィーリングが強い。Jerry Gaskillの前スタジオ盤でも聞かれたトライバルなドラミングも多用され、シンバルの使用も多めになったような感じを受ける。今までありそうで無かったのが不思議なのが"Higher than God"。こういう直球勝負な曲って実は少ないのがKing's Xの特徴でもあった気がする。最後に"Ear Candy"ツアー時NYで行なわれたライブからのトラックでTyが今作曲中の新曲を披露するよ、と言って演奏されたのが"Walter Bela Farkas"。この時の前座だったThe Galactic CowboysのWally Farkasの奇妙なVoをフィーチャーしたジャムセッション風の曲が収められている。
Please Come Home... Mr.Bulbous ('00)オランダ盤では、ヴィデオ付きもあるらしい…の8th。曲間に訳の判らないオランダ語と日本語が挿入されている…。日本語の方は「隣の客はよく柿食う客だ」(早口言葉じゃん…)と「畜生!何てひでえサンドウィッチだ!」(どうした?おい?)。デンマーク語?「Acht-en-Tachtig-Prachtig-Grachten」、「Zes-en-Zestig-Sinaas-Appel-Schillen」、「Hottentotten-Tenten-Tentoonstellingen」だそうです。そんなアルバムだが、中身は相変わらずクォリティーの高い秀作。"Fish Bowl Man"では、真ん中にジャムセクションを挿入。モダンジャズっぽいフィーリングもある。そして、今回Jerryは朗読をこの曲で挿入。意味深なタイトル(bulbousというのは、「電球のような」という意味;まんまですね)に曲タイトルも"Charlie Sheen"なんてのもあったり。冒頭の"Fish Bowl Man"にしても歌詞は何か迷走状態な気もする。もしかしたら、こういった自身の歌詞や言動に振り回されることが多かった彼らならではの「そんなに気にするなよ、グルーヴを楽しめよ」ってことなのかもしれない。多分…。
Manic Moonlight ('01)今作では、King's Xのアルバムでsample、drum loopという文字が初めて躍る作品となった。その為、ほんの少しだけ、グルーヴが硬質になり、しなやかさが後退したような気もする。例えば、Red Hot Chilli Peppersのような、それに近いグルーヴ。King's Xの作品中もしかしたら、一番プログレ、というジャンルに近い作品かもしれない…。ある意味、時代の要請に応えたアルバムかもしれない。今まで以上に広がりのある音空間を創り上げ、従来のグルーヴを、ちょっと加工した感じでパレットに広げると、新しいKing's Xの側面が見えてくる。発見の多いアルバム。冒頭から、この融合が成功しているのは明らか。特に"Yeah"のようなノリで聞かせる曲はグルーヴ先行型のKing's Xとの相性は良い。隠れた名盤と言えよう
Black like Sunday ('03)今作は少し毛色の違った作品となった。このアルバムは、バンド初期にライブで演奏されていた曲やデモまで製作されていて、結局どのアルバムにも収録されなかった曲群を集め、レコーディングされた作品。こういう機会でも無理やりにでも持たないと、きっと日の目を見ることが叶わなかっただろう、ということらしい。Dan McCollamとDoug Pinnickによる"Working Man"以外は全てバンド名義による作曲となっている。こういった性格を持つアルバムの為、楽曲は結構バラつきがあるように感じられる。幾分、初期のキャッチーなコーラスを持つチューンが多い感じは確かにする。また、ドラムの叩き方も初期の重さが戻ってきているような…。またこのディスクはCDROM仕様になっており、スクリーンセイバーや歌詞等と一緒に86年の"Dreams"のライブヴィデオが入っている(Windows Media Player仕様)。
Ogre Tones ('05)欧州の中堅レーベルInsideOutに移籍してからのスタジオ作第1弾。プロデューサーにベテランMichael Wagenerを迎える。欧州に関しては滅法強いレーベルに移籍した事で、新たに自分たちのあるべき姿を見つめ直した作品のように思える。若干、バンドのグルーヴは抑え気味。その分、得意のビートリーなコーラスやキャッチーなメロディーやフックを前面に押し出しているように思える。名作"Goldilox"を再度収録したことで、新たにリセットしなおすバンドの意気込みを感じる。オープニングナンバーの"Alone"は「誰しも孤独を感じるべきではない」とKing's Xらしいポジティブなメッセージを送ったもの。"Honestly"はTy Taborのヴォーカルとシンプルなアコースティックギターの調べが、ヘヴィーな曲の中に良いアクセントとなっている。"Bebop"はその名の通りの曲。ヘヴィーR&B。"Trutti Frutti"のアレと同じヤツ。聴き所満載の名盤。
XV ('08)Sneak Preview時代から数えて15枚目のアルバム、ということで、"XV"というタイトルが付けられたらしい。プロデュースは前作に引き続きMichael Wagner。今作はオープニングのヴォーカル・コーラスからラフな勢い一発的な生々しさを感じる。そして、冒頭のイントロは12弦ベース?コーラスが"Don't forget to pray for me"という何とも最近のKing's Xらしいライン。元々Beatles的なヴォーカル・ハーモニーを得意としていたKing's Xが今作で、リラックスしたコーラスに切り替えたのは興味深い。Ty Taborらしいギター・プレイとヴォーカルが聴ける"Repeating Myself"、"I Just Want to Live"や"I don't Know"がある一方でPoundhoundっぽさを持つ"Rocket Ship"と一聴した時、このアルバムは分裂症気味なんだろうか?と勘繰った程、各楽曲に際どいまでにメンバーの色が出過ぎているようにも思えた。それもビートリー全開の"Julie"での久しぶりのJerry Gaskillの声で、ある意味、アルバムの全体像がしっかりと芯のあるものになったように聴こえる。そして、先行ソロとなった"Alright"は"Complain"にも似たメロディーを持つ秀逸な曲。"One day, it's gonna be alright"は正にアンセム以外の何者でもないだろう。新しいキラーチューンとなるライブ受けする曲。ライブ受けと言えば、緊張感のある"Move"も是非聴いてみたいところだ。King's X版ヘヴィーブルーズ"Broke"や往年の楽曲を思いださせる"Go Tell Somebody"と楽曲の充実が素晴らしいアルバム。日本盤には"Love and Rockets (Hell's Screaming)"、"No Lie"と"Rocket Ship"のデモの3曲がボーナストラックとして収録されている。


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