Others

Carmen

Fandangos in Space ('74) / Dance on a Cold Wind ('75)73年David Bowieの「Midnight Special TV Show」に出演したCarmenを当時はスペイン出身のバンドとよく紹介されていたそうだ。実際はバンドの核となるDavid Allen(vo、g)とAngela Allen(vo、mellotron、synth、footwork)はロス出身で両親はフラメンコ・レストランを経営していたそう。4歳の時から両親と一緒にステージに上がりギターの演奏技術に磨きをかけていた。その後Beatlesに衝撃を受け、フラメンコとエレクトリックの融合に腐心したという。73年にAllen兄妹は英国に渡り、Tony Viscontiなどとの接触に成功し、Roberto Amaral(vo、vibraphone、footwork、castanets 現在でもソロやプロデュース業を行っている)、John Glascock(b)、Paul Fenton(ds T-Rexの"Zinc"等でもプレイしている)をオーディションで新メンバーに迎える。スペインのバンドと思われたかのように、激しいオープニング・ナンバーはスペイン語で歌われる"Bulerias"から始まる。因みにBuleriasとは最もテンポが速い曲種で激しい曲調を持つ曲を意味し、アルバムのオープニング・ナンバーとしては最適だろう。「オーレ!」という掛け声(ハレオと言うらしい)からcante(カンテ;歌)、パルマと呼ばれる特徴的な手拍子(セコと呼ばれる高音とバホと呼ばれる低音に分かれる)、baile(バイレ;踊り)ではfootworkとクレジットされたサパテアードの足踏みのサウンドが響き渡る。踊りに使われるカスタネットも利き手に高音、逆手に低音が出る物を持つそうだ。続く"Bullfight"も正しく闘牛をモチーフにした勇壮な曲。"Sailor Song"は海のジプシーといった趣を持った渡り鳥的なイメージを彷彿とさせるバラード曲。"Poor Tarantos"はフラメンコ・ギター1本で演奏される小曲。"Looking Outside (My Window)"はAngela Allenの力強いリード・ヴォーカルをフィーチャーした曲。続く"Tales of Spain"は本作中最も長尺の曲(9分近い)。詩情溢れる曲。"Retirando"はアカペラで始まる1分にも満たない小曲でそして表題曲のイントロ的な役割を持つ。表題曲はフラメンコ風のサウンドを使った緩急のあるギターサウンドが素晴らしい。中間部に再び"Retirando"が出てきて、激しい手拍子に乗せてギターが鳴り響くさまは圧巻。そして"Bulerias"へと戻る。"Reprise Finale"では優美なギターサウンドで最後を締めくくる。
仏タバコのジャケットを模した2nd"Dancing on a Cold Wind"。冒頭のセヴィリア(南スペイン、アンダルシアの州都でフラメンコの本場と呼ばれる)讃歌とでも呼べそうな"Viva Mi Sevilla"から始まる。全体的に前作で聴かれた足踏みなどの音は減った印象。John Glascockの硬質なベース・サウンドが印象的。"I've been Crying"、"Drifting Along"とCarmenが持つメランコリーな部分がよく現れたナンバー。"She Flew Across the Room"は"Purple Flowers"のイントロ的役割を持つスペーシーなインスト曲。"Purple Flowers"のRobert Amaralのシアトリカルな歌唱が素晴らしい。後半はお得意のフラメンコ・パートへと突入する。所謂LPで言うところのB面("Table Two for One"から"She's Changed"まで)は"Rememberances(Recuerdos de Espana)"と題された組曲となっている。Robert Amaralがナレーター、Angela Allenが主人公のジプシー、John Glascockが恋人役(The City)、David Allenが過去の恋人役(Time)、という配役でリード・ヴォーカルを回す構成になっている。特にJohn Glascockがヴォーカルを取る"The City"では名手David Katzのヴァイオリンが後半に登場。その他にMary Hopkin(vo)、Chris Karan(perc.)が参加している。"Quiriquitu"と"Out on the Street"の2曲がボーナス・トラックとして収められている。
The Gypsies ('76)1年間オープニング・アクトとしてSantana、ELO、Golden Earring、BOCなどとツアーを重ね知名度を上げたCarmenはJethro Tullとのツアーに突入。最初の1ヶ月目でCarmenの機材を積んだバスが横転し機材を全て壊してしまった。この時Carmenはアコースティック・ギターとヴォーカル、Casteiと呼ばれる棒のみで演奏をしたそうだ。一緒にツアーをしていたJethro Tullはその実力に驚き、残りのツアーをこなせるように機材を一緒に使った、という。このツアーが終わってアメリカに戻ってレコーディングされたのが本作。全体的に更にフラメンコ色は薄れているが、全てがしっかりとあるべき所に収まった感を受ける。スペーシーなキーボード、クラシカルな旋律を奏でるピアノ、Roberto AmaralとAngela Allenのヴォーカルは深みを増しているように聴こえる。"High Time"はJohn Glascockによるブルージーな曲。"Joy"の持つ叙情的なサウンドが素晴らしい。表題曲である"The Gypsies"はフラメンコをたっぷりと堪能出来るナンバー。ジプシーを運ぶ馬車のような音がするSEから歌を歌うジプシーの声が聴こえると曲へと雪崩れ込む。前2作で聴けたカスタネットや足踏みのサウンドは確かにCarmenのみが持ちうる特徴的なサウンドだろう。David Allenの激しいギター・ソロが素晴らしい。本作最後を飾る"Margarita"の牧歌的で長閑なイメージを喚起させる世界観が素晴らしい。ボーナス・トラックに2枚目のシングルとして発売された"Flamenco Fever"はオープニングが非常にJethro Tullっぽい。そして79年になくなったJohn Glascockへのトリビュートである"Only Talking to Myself (for John)"はDavid Allenが90年代に組閣したソロ・プロジェクトWidescreenとAngela Allenのヴォーカルによる曲。都会的な雰囲気を纏ったR&B的な珠玉のバラード。ジャケットは07年に再発された際にDavid Allenソロ"Widescreen"とのカップリング。


The Gods

Genesis ('68)The Godsは65年にKen Hensley(key、g、vo)を中心に結成される。後にKing Crimsonを結成するGreg Lakeなどが一時的に在籍していた事でも有名。本作は後にKen Hensleyと一緒にUriah Heepを結成するLee Kerslake(ds)、John Konas(g)、John Glascock(b、vo)からなる。後のUriah Heepを彷彿とさせるLee Kerslakeのハイトーン・コーラスを多用したビート・ポップといった趣。Ken Hensleyはオルガンをメインに使用。"Candle Getting Shorter"や"I never Know"というバラード系の曲ではメロトロン・サウンドがしっとりとムードを醸し出す。"You're My Life"ではJohn Konasのギターソロがたっぷりとフィーチャーされている。"Radio Show"ではホーンセクションが活躍。曲間のSEと宇宙人が話すようなエフェクトをかけた声は時代柄とはいえ流石に今聴くと余計な気がする。CD化の際にBeatlesの"Hey Bulldog"のカヴァーを含む4曲(シングル曲)を収録。
To Samuel a Son ('69)1stと同じメンバーで製作されたコンセプト・アルバム。コンセプト・アルバムのせいか前作よりもすっきりとサウンドがまとまった印象を受ける。本作はSamuel(Sammy) Jを主人公にした物語。Sammyに男の子が出来た表題曲(冒頭に赤ちゃんの声が聴こえる)"To Samuel a Son"からその子の成長を綴った"Eight O'Clock in the Morning"と"He's Growning"と続く。オルガンとコーラスを多用したサウンドは前作から継承されている。"Sticking Wings on Flies"でSammyが出稼ぎ(?)に出なくてはいけないような状況にあることが歌われている。"Lady Lady"ではドーヴァー出身のJayという女性との出会いと結婚の様子が聴け、そして"Penny Dear"では家でSammyを待つPennyを可愛らしく歌っている("Lady Lady"の最後に名前が変わる、というラインがあるので、JayがPennyになった、ということなのだろうか?)。"Long Time, Sad Time, Bad Time"ではその子供にSammyが帰ってくることを言い聞かせる母親(Penny)の姿を歌っている。"Five to Three"はSammyが定年退職する日。おどろおどろしいオープニングからMellotronが鳴る"Autumn"は人生の終わりに近づきつつある自分を見つめる曲。そして、もしも一人になってしまったら(妻を失ったら)何も出来ない自分に気付く"Yes I Cry"。ハードなチューン"Groozy"はCrazyとGroovyの造語で「超凄い」みたいな意味。"Mama I Need"はいよいよ終焉を迎える主人公が最後に母親を思い助けを求めるような歌詞。"Candlelight"は夢に見たと思しき女性を追い求めて街を徘徊する。そして"Lovely Anita"で本作は幕を閉じる。ボーナストラック"Maria"はミュージカル「ウェスト・サイド・ストーリー」から。


Paris

Paris ('76)カリフォルニア出身のBob Welch(g、vo 元Fleetwood Mac)にGlenn Cornick(b、key 元Jethro Tull)とThom Mooney(ds 元Nazz)からなるトリオ・バンド。基本的にLed Zeppelinタイプのブルーズ・ロックを下敷きにしたソリッドなハードロックを展開する。意外とBob Welchのヴォーカル・スタイルがRobert Plant似なのが驚き。Fleetwood Mac時代ではあまり意識したことがなかったけど、Fleetwood Mac時代よりも若々しく躍動感に満ち溢れてる。Thom Mooneyのドラムも重めでどっしりとしたドラム・サウンドを提供する。"Narrow Gate (La Porte Etroite)"はしっとりとしたオープニングからGlenn Cornickの膨らみのあるバキバキ言うベース音が印象的。またキーボードサウンドもプログレッシブ・ロック界隈にいたから、という訳ではないだろうが、ドラマティックなサウンド作りが非常に上手い。フランス語の副題を持つタイトルといい、Parisというグループを象徴するナンバーなのかもしれない。これは名盤。
Big Towne, 2061 ('76)ドラムにHunt Sales(元Todd Rundgren)を迎えて製作された2nd。キーボードの比重が高まり、ブルーズロック寄りの音楽性から更に幅広い音楽性を備えたロックを披露している。ドラムも後ノリのどっしりとしたものからジャストなアプローチへと変わったように聴こえる。Hunt Salesが作曲に関わった"Outlaw Game"は前作とは違った後期Led Zeppelinを思わせる曲。ヴォーカルの声質と歌詞の「how the west was won」というフレーズのせいも多分にある。ファンク・ナンバーの"Money Love"のヴォーカルは多分Hunt Salesだろう。最後の"Janie"はWelch、Sales、Cornickトリオによって書かれた唯一のナンバー。キーボードによるイントロからしっとりと歌いあげながら、徐々に盛り上げていくさまは圧巻でプログレ的壮大さを持つ。ジャケの裏を見るとメンバーが4人いるのだが…やはりこれはTony Salesが写っているのだろうか???このアルバムの唯一の問題は再発に際してZoom Clubという所から出ているのだが…リマスターをうたってはいるが、キンキンと高音が強いサウンドに仕上げているのが痛い。


Toe Fat / Head Machine

Toe Fat ('70) / Toe Fat Two ('70)Toe FatはCliff Benettを中心としたグループ。元々Clife Benett & the Rebel Rousers(Chas & Daveもここの出身)でホーンを取り入れたR&Bを歌っていたCliff BenettはThe Godsを抜けたKen Hensley(g、organ、p、vo)と合流。同じくJohn Glascock(b)とLee Kerslake(ds)をリクルート。この布陣でアルバムを製作(1st、2nd共にどういう訳かJohn Konasとクレジットされているが謎らしい。The GodsのギタリストJoe Konasと間違えた?という説が有力だけど2回も間違えるか?)。基本的に英国らしいスクウェアなグルーヴとブギを主体とした感じ。"Bad Side of the Moon"はElton Johnのカヴァー(シングルBorder SongのB面でライブ"17-11-70"に収録)。続く"Nobody"はThree Dog Nightのカヴァー。そして"Just like Me"はHolliesのカヴァー。当然ながらブギ色が強まっている。特にビート・ポップなHolliesのカヴァーの変貌は凄い(ヴォーカル・コーラスは入れているけど)。バラード"The Wherefores and the Whys"ではCliff Bennettの出自を感じさせる爽やかさが残る。"Just like All the Best"の冒頭のフルートとハーモニカはMoxyとクレジットされているが、Cliff Bennettによると顔もサウンドもIan Andersonにそっくりなヤツが吹いた、との事。続く"I can't Believe"の疾走感あるサウンド、更にダミ声に磨きがかかった(?)Cliff Bennettのヴォーカル・パフォーマンスとKen Hensleyのギターが素晴らしい。
アルバム製作後すぐにバンドを離れたKen HensleyとLee Kerslakeに代わってすぐにAlan Kendall(g 元Glass Menagerie)とBrian Glascock(ds 元The Gods)を入れてから米ツアーへと向かう。ツアーから戻ってきたバンドはKen Hensley不在のためか、音楽性を更にR&B主体の方向性に向かわせるアルバムToe Fat Twoを製作。ウクレレの導入部からヘヴィな"Stick Heat"が始まる。そしてAlan Kendallのギター一本によるサイケっぽい"Indian Summer"が面白い味を出している。ブルージーな"There'll be Changes"のギターは緑神Peter Greenによるものとされている。ハーモニカは再びMoxとクレジットされているので1stのIan Andersonそっくりさんと同一人物だろう。8分近い大曲"A New Way"は前半Alan Kendallのギターが静かに奏でられCliff Bennettの野太いヴォーカルが突如入ってくる、という構成。"Since You've been Gone"はその歌詞のせいかどこかLed Zeppelinを思わせなくもない。ヴォーカル・ハーモニーはビート・バンドらしさが出ているのが良い。Humble PieやFoghatといったブギ・バンドやR&B/ソウルに強く影響されたブリティッシュ・ハードが好きなら迷わずチェックすべき盤だろう。
Head Machine "Orgasm" ('70)The Godsのプロデュースも手掛けたDavid Paramor(vo)がKen Leslie(organ, p, g Ken Hensley)、John Leadhen(b John Glasscock)、Brian & Lee Poole(ds Brian Glasscodk & Lee Kerslake)という変名クレジットでバックを固めた作品。丁度メンバーがToe Fatに在籍していたための変名なのだろうか?オープニングの"Climax - You Tried to Take It All"からToe Fatの"I can't Believe"と"You Tried to Take It All"を合体させた曲。バラードの"Make the Feeling Last"、"The Girl who Loved, the Girl who Loved"はこの時代の空気をたっぷりと吸い込んだサイケ・ポップ調の素晴らしいナンバー。"The First Time"での荘厳なオルガンは正にKen Hensleyといったプレイが聴ける。"You must Come with Me"の最後のギターノイズは左右のスピーカーの音量を上げたり下げたり、といったギミックも時代を感じさせる遊び心が楽しい。表題曲では当然ながら「喘ぎ声」が入るのだが、せめて野太い男声は避けて欲しかった。楽曲の全てはDavid Paramorによるもの。アルバム・タイトルから判るように各曲のタイトル、歌詞もただのドエロ。


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