Jethro Toe



Jethro Tull

"This Was" ('68)概してデビューアルバムに名盤が多いのは、そこに到るまでのエネルギーを一挙に放出した結果としての1stアルバムとなるから、なのだと思う。このJethro Tullの1stも唯一無二の名盤となった。ジャジーなブルーズロックと呼ぶか、ブルージーなジャズロックと呼ぶか、悩むところだ。時に重くソリッドな演奏を聴かせるが、主にロールするClive Bunkerのドラム。Glenn Cornickのベースは派手さは全くないが、時にメロディアスでハッとさせるフレーズが飛び込んでくる。Ian Andersonはここでは、ヴォーカル、ピアノ、マウスオルガン(ハーモニカ)にトレードマークのフルート。そして、このアルバムを何よりも特別にしているのがMick Abrahamsのギター。小曲ながら多彩なギターが聴けるジャジーな"Moving on Alone"(ヴォーカルもMick Abrahamsっぽいですね)やRoland Kirkの"Serenade to a Cuckoo"、曲の最後にドラムマッドネスが入る"Dharma for One"。そしてお馴染みの"Cat's Squirrel"はMick Abrahamsのアレンジによるもの(鳥肌物)。どこかで聴いたことがあるようなブルージーなフレーズが満載の"Some Day the Sun won't Shine for You"や"It's Breaking Me Up"等はIan Andersonのブルーズへの憧憬か。01年再発に"One for John Gee"(Mick Abrahamsの曲)、"Love Story"、"Christmas Song"が足されるが、やっぱりアルバムリスナーとしては同時期の録音物とは言え、違和感を覚える。この後、Mick AbrahamsはJethro Tullを脱退。バンドは違った方向性を向き始める。それ故、このアルバムの重要性が更に浮き彫りにされる。時代が産み落とした大いなる遺産の一つである。
Stand Up ('69)Mick Abrahamsの後任にMartin Barre(g)を迎えブルーズ色が濃かった前作から主にアコースティックに重点を置き始めた作品。それはバッハのリュート組曲第1番Boureeを改作したジャズっぽい雰囲気を纏った"Bouree"や牧歌的な"Look into the Sun"、舞踊曲のような"Fat Man"(ライン・ダンスというよりは円を描くサークル・ダンスっぽいのに合いそう)や、Eaglesの"Hotel California"を思わせる"We Used to Know"(って、こっちが先ですね)などからも窺える。フルートとアコースティックギターの絡みが美しい"Reason for Waiting"のフルートと"Jefffrey Goes to Leicester Square"のフルートはMartin Barre。オープニングの"A New Day Yesterday"こそ、ブルーズ色が強いものの、既に冒頭のこのナンバーで前作以上にサウンドの幅が広くなっている事に気がつく。01年の再発時に名曲"Living in the Past"、"Driving Song"、"Sweet Dream"、"17"がボーナストラックとして収められる。モノトーンの細かい鉛筆画のジャケットに比べて、細かい所は似ていても、カラフルな音像を持ったアルバム。早くも新しいスタートを切ったJethro Tullが聴ける。
Benefit ('70)今作は、ゲストにJohn Evan(p、organ)を迎えたことで、ある種プログレッシブ・ロック・バンドとしてのJethro Tullが誕生した重要なアルバム。John Evanのプレイによって、Matin Barre(g)は更にリフやソロに集中が出来るようになった、とIan Andersonがライナーで語っているように、Martin Barreのプレイが随所で光っている。John Evanのプレイは”Alive and Well and Living In”でのRenaissanceを思わせるクラシカルな旋律に代表されるように、要所要所で時に優雅なピアノやオルガン・プレイを披露している。当初はほんの1年か2年ぐらいしかJethro Tullと一緒に活動するつもりはなかったらしいが、結局はその後も長くJethro Tullのメンバーとして活動することになる。また、本作は、”With You There to Help Me”や”Play in Time”のようなトリッキーなアレンジ(テープの逆回転?)などを施しているのも特徴の一つだろう。勿論、このバンドの本懐は”Nothing to Say”や”Inside”、”Sossity; You’re a Woman”などのフォーキーな曲だろう。更に名曲”To Cry You a Song”が収められており、こういった楽曲が一つのアルバムに同居してしまうのは正にJethro Tullの懐の深さに他ならないだろう。01年再発時に”Teacher”のオリジナルUKミックスを含む4曲が足される。本作を最後にGlenn Cornick(b)が離脱する。
Aqualung ('71)Glenn Cornickの後任にJeffrey Hammond-Hammond(b)が加入。前作よりもスタジオ・ギミックを減らし、R&B的なグルーヴと伝統的なフォーク・サウンドの踏襲等に焦点を当てた印象を受ける。ジャケットに描かれている"Aqualung"と名付けられた浮浪者を歌ったオープニング・トラックのヘヴィーなエレクトリック・サウンドと中間部のアコースティック・セクションは正に象徴的だろう。続く"Cross-Eyed Mary"でも"Aqualung"からストーリーが続いた為、コンセプト・アルバムと誤解された、とIan Andersonは語っている。1分53秒の小曲ながらDavid Palmerのオーケストレーションが印象的な"Wond'ring Aloud"の美しさが素晴らしい。所謂B面に入ると宗教的なテーマを持つ"My God"、"Hymn 43"と続く(因みにこれらの曲は反教会的であって、反宗教ではない)。そして、現在ではバンドを代表する曲といっても過言ではない"Locomotive Breath"はタイトル通りの力強さを持つ。それにしても、タイトル・トラックのキャラクターである「水中ボンベ」という名前は不思議。当時の英国の社会風景をIan Andersonなりに切り取った感じを受けるアルバム。因みにレコーディングの際に使用したスタジオIsland RecordsにはLed Zeppelinも"IV"の製作に来ていて、Jethro Tullの方が大きなスタジオを使っていたんだそう。Jimmy PageはちょくちょくJethro Tullのスタジオに遊びに行っていたと言う。
Thick as a Brick ('72)Clive Bunker(ds)の後任にBarriemore Barlowが加入。所謂黄金期のラインナップがここに完成する。コンセプト・アルバムの本作はLP時代に作られたため、当然A面とB面に分かれるが、もしももっと収録時間の長いフォーマットがあったら、1曲にまとまっていただろう、と想像出来るのは、B面の冒頭のSEは仕方なく付けた、という感が拭えないから。まず、この"Thick as a Brick"は感覚的に言うと「馬鹿」よりも「のろま」って感じ。新聞の1面を模したジャケットが報じているのは、本作の主人公である、この"Thick as a Brick"の作者である8才の少年Gerald "Little Milton" BostockがThe Society for Literary Advncment and Gestation"(通称SLAG; gestationやslagの意味も調べて下さいね)なる協会の賞を受賞した模様を写真で伝えています。しかし記事はその賞の模様ではなく、その後日談を伝えています。賞を受賞したGerald少年はBBC TVにて"Thick as a Brick"の朗読を行い、その後のインタビューにおいて、4文字言葉(所謂fuckとかの放送禁止用語)を連発したため、児童心理学者が集まり、Gerald少年はすぐにでも治療を受けなくてはならず、またそのような人物に賞は相応しくない為、12才の少女Mary Whiteyardが書いた"He died to save the little Childrean"に賞が贈られた、という記事。更にオカシイのはその連発された4文字言葉が「G○○R」という。記事内にそのBBCの番組のプロデューサーが「僕が彼と同じ年の頃なんて、G○○Rの意味さえ知らなかったよ!」とまでのたまう徹底振り。そんな問題作となってしまった"Thick as a Brick"に曲をつけて発表した、というのが今作のコンセプト。その音楽性は明快で親しみやすいトラッド調なメロディーを軸に時にKeith Emersonバリにハードに鳴るJohn EvanのキーボードやDavid Palmerの短くも印象的なストリングスの置き方など1曲が20分以上あるのを忘れさせてくれるような工夫がしっかりとされている。A面の18分ぐらいの所のフルート・パートが"Baby You're a Rich Man"を思い起こさせるのは気のせいかな?
A Passion Play ('73)まずはそのタイトル「A Passion Play」。直訳すれば「情熱的な劇」はキリストの情熱、つまりキリストの裁判から磔刑による死に至るまでを描いた劇の事である。最も有名なドイツ、オーバーアマガウで10年に一度行われるものから、聖金曜日(イースターの前の金曜)に市民がヴォランティアで行うものなどがある(特に野外)。それだけキリスト教国では一般的な劇でもある。まず、ある人の葬儀から場面は始まり、当人はその葬儀を眺めている情景が描かれている。そして、迎えの天使がやってきてID(身分証明書)を渡され、生前の出来事を映画のように映し出される(受難劇の裁判に当たるのだろうか?)。そして、「ピーターと狼」あたりを思い起こさせる小話"The Story of the Hare who Lost His Spectacles"で前半(A面)が終わる。B面に入ってからの歌詞は内省的な部分を持っているように聴こえる。そして、最後の5分。ハードに鳴り響く音に"BE"と大文字で書かれている。つまり「生」への賛歌へと回帰しているように思える。音的にはこれまでになくIan Andersonのsaxがここぞという所で鳴っているのが特徴だろうか。前作同様のフォーマットながら、更に硬質で冷たい雰囲気を感じるが、キーボードのサウンドやフルートよりもインパクトの強いサックスの多用によるものかもしれない。じっくり腰を落ち着けて聴きたいアルバム。
Warchild ('74)元々死後の世界を描いた形而上学的なブラックコメディーな内容の映画のために予算を組まれたプロジェクトのためのアルバム。予定では2枚組となる予定だったらしいが、しかるべき映画会社などを見つけられず暗礁に乗り上げてしまった(脚本や役者陣などは決まっていたらしい)。アルバムのB面となる"Skating Away on the Thin Ice of the New Day"、"Bungle in the Jungle"、"Only Solitaire"は前作"A Passion Play"製作時に漏れた曲、"Two Fingers"は"Aqualung"から漏れた"Lick Your Fingers Clean"(96年リマスター時にボーナストラックとして収録)をリアレンジしたもの。つまりA面とB面の"The Third Hoorah"が映画用に作られた楽曲と捉える事が出来る。アルバムのオープニングはまるで空襲警報が鳴る中お茶を飲む風景のようなSEから始まる。Ian Andersonのサックスの力強さやエレガントなJohn Evanのピアノ・プレイが印象的な表題曲から始まる。トラディショナル風味の舞踊曲のような"Ladies"やMartin Barreの最後のソロが際立つ"Back-Door Angels"などが白眉。そして、コミカルな"The Third Hoorah"で冒頭に戻って一周したような印象を受ける。全編に渡ってDavid Palmerのオーケストラ・アレンジが印象的。
Minstrel in the Gallery ('75)アルバム・タイトルそのままの猥雑な宴がお城の中で催されているような情景が映し出されている。アルバムのオープニングも中世のお城の中でまるで吟遊詩人がこれから城主の前に出て行くかのような演者の紹介から始まる。Ian Andersonの弾き語りを導入部に、Martin Barreのギターが高らかに激しく鳴り響くハードロックな表題曲は圧巻。アルバムを紹介する曲、として位置づけることができるだろう。続けて吟遊詩人に扮するIan Andersonが"Cold Wind to Valhalla"と曲をコールするとストリングスをバックに朗々とIan Andersonの声が響く。A面最後の"Requiem"からの流れを汲むようにB面の冒頭"One White Duck / 0 10 = Nothing at All"(0 10の本来の表記は0の10乗)もストリングスを取り入れた前半部から始まり、後半部はIan Andersonの弾き語りへとシンプルな編成へと変化する2曲を1つにまとめた構成を持つ。そして16分以上ある5曲からなる"Baker St.Muse"へと流れる("Nice Little Tune"は6分40秒あたりから1分間ぐらいの所のインスト・セクション)。最後に吟遊詩人が退場していく様が聞き取れるが、扉を開けようとすると「I can't get out!」と叫ぶ声が聞こえる。そして最後に37秒の"Grace"という小曲でアルバムの幕は閉じる。今作では、David Palmerはストリング・カルテットを起用。吟遊詩人がお城の中でエンターテインメントをする、という設定に合っている。
Too Old to Rock 'N' Roll : Too Young to Die! ('76)元CarmenのJohn Glascock(b)を迎えての初めての作品。全編を覆うオーケストラ・アレンジはお馴染みのDavid Palmer("From a Dead Beat to an Old Greaser"のサックス・ソロも)。ゲスト・ヴォーカルに表題曲でMaddy Prior(Steeleye Span)が、John GlascockのCarmenでの同僚Angela Allenが"Crazed Institution"と"Big Dipper"で参加。本作は落ちぶれたロックンローラーがバイク事故で入院している間に再び時代が彼に近づいた、という浦島太郎的なコミック・ストリップをベースにしたコンセプト・アルバム。なのだが、このタイトル、ジャケット、ストーリーが、この芳醇な音楽の評価を正当に下すのに役に立っているとは到底思えない。気品のあるDavid Palmerのオーケストレーションで幕を開ける冒頭の"Quizz Kid"、Ian Andersonのアコースティック・ギターの調べが美しい"Salamander"やまるでフォーク・ミュージックのような佇まいを持つ"From a Dead Beat to an Old Greaser"、クラシカルな雰囲気を持つ"Big Dipper"から表題曲、そして珠玉の名曲"Piped Piper"への流れは見事としか言いようがない。前作から自然な形で進化した音楽性を提示した名盤。
Songs from the Wood ('77)本作から今まで主にオーケストラ・アレンジなどを手掛けてきたDavid Palmer(p、syn、organ)が正式メンバーとしてクレジットされている。基本的にフォーク・トラッド路線と言われることが多い本作ではあるが、元々がフォーク・トラッド色の強いグループなので、殊更、その路線を強めた、という印象はなく、どちらかというとDavid Palmerのアレンジ力が更に磨きが掛かった印象を受ける。オープニングの表題曲も今まで以上にJethro Tullらしいドラマティックな盛り上がりを持つ楽曲になっている。その反面、次の"Jack-in-the-Green"はIan Anderson一人で録音している曲もある。キャッチーな"Cup of Wonder"、ハードロック的なドラマ性を持った"Hunting Girl"。タイトル通りのベルの高揚感を持つ"Ring Out, Solstice Bells"、中世的な世界観を持つ"Velvet Green"。圧巻は"Pibroch (Cap in Hand)"だろうか。本来であれば、バグパイプで演奏されるべき曲の事をPibrochと呼ぶが、ギターがこれでもか、という程ドラマティックに盛り上げる。アレンジがJethro Tullとバンド名義になっていたり、アディショナル・マテリアルにDavid PalmerとMartin Barreの名前がクレジットされているように総力戦的な内容。名盤と呼ぶに相応しい内容でしょう。
Heavy Horses('78)まず、冒頭の"...And the Mouse Police never Sleeps"の(Robert Frippが主催していた)ギタークラフトのようなアコースティック・ギターによるオープニングのリフに驚く(勿論、こちらが先なのだが)。この曲の最後の激しいヴォーカルパートの後に咳き込むという演出付き。続く"Acres Wild"と表題曲ではWolfのDarryl Wayがヴァイオリン・ソロ(アコースティック)を披露。Jethro Tullに合ったプレイを提供している。David Palmerのストリング・アレンジに複雑なリズムを持つ"No Lullaby"の世界観はJethro Tullならではのもの。正に圧巻。前作にしてもそうだが、フォーク・トラッド色が強まったというのは音楽性云々よりもむしろ歌詞にあるのではないだろうか。風刺が強く、隠喩に富んだ歌詞はまさしく英国的。"Moth"というタイトルに反して雅な雰囲気まで持つ佳曲やR&B的な側面が強く出た"Journeyman"、フェアーからフェアーへと点々とする様が音によって描かれているような"Rover"といった小曲の出来も非常に良い。クラシック、トラッド、R&Bをここまで上手くブレンド出来るのはJethro Tullだけだろう。
Stormwatch ('79)本作レコーディング中John Glascockは病を患っており"Flying Dutchman"、"Orion"、"Elegy"の3曲のみに参加。他の曲のベース・パートはIan Andersonによって録音されている。77年にスコットランドのスカイ島で鮭の養殖などの事業を始めたことも"North Sea Oil"のような環境を無視した経済成長に警鐘を鳴らす歌詞や巨大な白熊が石油コンビナートを破壊するゴジラのようなイラストに繋がるのだろう。そういったモチーフを持った曲が多いせいか、全体的にハードなサウンドが支配的に聴こえる。そんな中でもインスト"Warm Sporran"の冒頭ではJethro Tull流ファンクへの接近が僅かばかり聴けるのが興味深い。Ian Andersonの冒頭のアコースティック・ギターとフルート、David Palmerのオーケストレーションが印象的な"Old Ghosts"は白眉。本編最後の"Elegy"はDavid Palmer作による雅やかなインスト"Elegy"で締め括られている。アルバム・タイトル、及びジャケットに書かれているラインは"Dun Ringill"(スカイ島にある古城の名前)からの抜粋。
A ('80)結局、80年4月に行われたライブを最後にMartin Barre(g)とJohn Glascockの後任のDave Pegg(b)以外のメンバーを解雇という形を取ったJethro Tull。当初はIan Andersonのソロ・アルバムとしてして企画されたアルバムで、Eddie Jobsonを迎えた時点ではJethro Tullのアコースティック・セルフ・カヴァー集になる予定だったという。Eddie Jobsonが連れて来たMark Craney(ds)を加え、Jethro Tullの新作として推し進められる。アルバム・タイトルにある"A"は、Ian Andersonの苗字の頭文字から取ったソロ・プロジェクトからの名残。Ian Anderson(vo、flute)とEddie Jobson(key、violin)の音楽性はミスマッチのように思えたが、意外とIan Andersonの寓話やフォークロア的なドリーミーな嗜好とEddie Jobsonの持つ派手で煌びやかなサウンドが上手く結合している。如何にも80年代的なEddie Jobsonのサウンドに時代を感じるが、"Uniform"等のオープニングで聴けるエレクトリック・ヴァイオリンのサウンドはこれまでのEddie Jobsonのクラシカルでハードなものだけでなく、フォーク的なプレイ・スタイルも披露していて興味深い。またMartin Barreのギターが印象的な"4.W.D."という4駆車を題材にするのもJethro Tullにしては非常に稀。"The Pine Marten's Jig"はその名の通りの舞踏曲(インスト)。04年の再発時に"A"ツアーからのライブ映像"Slipstream"がボーナスDVDとして付いた。
The Broadsword and the Beast ('82)FotheringayやCat Stevensと働いていたGerry Conway(ds)とPeter John Vettese(key)を迎えた作品。更にプロデューサーにPaul Samwell-Smithを起用。時代柄かPeter John Vetteseのキーボード・サウンドによって非常にシンフォニック色を強めた作風となっている。恐怖をテーマにしたハードな"Beastie"でも物物しくも小技の利いたキーボード・サウンドが聴ける。"Fallen on Hard Times"ではスライド・ギターも使用しているようで、牧歌的なマンドリンやアコースティック・ギターと相俟ってハードでありながらノスタルジックな哀愁を漂わせている。オープニングのピアノが印象的な"Flying Colours"は80年代らしいキーボード・サウンドが散りばめられている曲。"Slow Marching Band"はJethro Tullらしいドラマティックなフォーク調の曲。勇壮な"Broadsword"は正しく戦う家族を守るために戦う男を描いた曲。"Watching Me Watching You"は後のIan Andersonのソロや時代に即したキーボード・サウンドを持つ曲だが、歌詞の持つ圧迫感が非常によく表現されている曲。05年の再発時に本作のレコーディング・セッション中に出来た8曲がボーナス・トラックとして収められている。後にDave Peggがこれらの曲を没にしないで、次作に収めたほうが良かったと述懐しているほど、完成度の高い曲群。ジャケットのイラストはIain McCaigによるもの。
Under Wraps ('84)Ian Anderson(vo、flute、ac.g)、Martin Barre(g)、Dave Pegg(b)、Peter-John Vettese(key)という編成でドラマー不在のままIan Andersonがドラムをプログラミングして製作されたアルバム。全体的にシンセによる装飾が厚く、時代を感じさせる出来になっている。多分に前年に出されたPeter-John Vetteseと一緒に作り上げたIan Andersonのソロ作"Walk into Light"からの影響も強いのだろう。そんな中シンセによる装飾が少なめの"European Legacy"やアコースティックナンバーの"Under Wraps #2"などは現在でもあまり違和感がない秀作。LPでは収録されずカセットのみに収録されていた4曲を含めてCDで再発される。
Crest of a Knave ('87)Ian Anderson(vo、g、flute、programme)、Martin Barre(g)、Dave Pegg(b)にドラムをDoane Perryが2曲、Gerry Conway(元Cat Stevens)が4曲で担当。その他は前作同様Ian Andersonがプログラミングを施している。そしてキーボード・プレイヤーが不在、というのも初めてのことではないだろうか?冒頭の"Steel Monkey"からいきなりZZ Top風のギター・サウンドに驚く。タイトル通りアジア風なメロディーが出てくるのはご愛嬌か。"Said She was a Dancer"や"Dogs in the Midwinter"のアコースティック・パートに本来のJethro Tullらしさを発見できてホッとする場面。10分を超える"Budapest"にはRic Sanders(violin)がゲスト参加。牧歌的なパートとクラシカルなパートの融合が素晴らしい。もう少しエレクトリック・ギターの音に気を使っていたらグラミー賞初のヘヴィーメタル部門で賞を取るなんてことも起きなかったかもしれない…。
Rock Island ('89)専任ドラマーにDaone Perryを置き、Martin Allcock(key 元Fairport Convention)とPeter Vettese(add.key)がサポートで参加。前作同様ギターサウンドにZZ Topのような太いギター・シンセのような音を多用している。疾走感のある冒頭の"Kissing Willie"から表題曲そのままの"The Rattlesnake Trail"へと続く。トラッド色が強い"Ears of Tin"や"Another Christmas Song"やJethro Tullらしい叙情性を発揮した"The Whaler's Dues"などの本来のJethro Tullらしいカラーが戻っているのが特徴だろうか。
Catfish Rising ('91)本作ではDave PeggがFairport Conventionのツアー参加のために息子のMatt Peggが代理で3曲で参加。ドラムは"Still Loving You Tonight"のみScott Hunterが叩き、残りはDoane Perryが担当。キーボードにAndy Giddingが3曲、John "Rabbit" Bundrickが"Sleeping with the Dog"、Foss Patersonが"White Innocence"で参加。冒頭の"This is not Love"や"Doctor to My Disease"のようなハード・ロック調の曲では相変わらずZZ Topを思わせるギター・サウンドが出てくる。バラード"Still Loving You Tonight"ではGary Mooreの"Parisienne Walkways"を思わせる演歌調の泣きが哀愁を感じさせる。"White Innocence"はこの頃のハードロック路線にあるバラードとしてはバランスが取れているように聴こえる。やはりJethro Tullに期待したいのは、ウェスタン映画を思わせる埃っぽい"Roll Yer Own"、"Thinking Round Corners"や"Like a Tall Thin Girl"や"Gold Tipped Boots、Black Jacket and Tie"のようなフォーキーな路線だろう。06年再発時に87年のライブ"Jump Start"を含む2曲のボーナス・トラックを収録している。
Roots to Branches ('95)Ian Anderson(vo、flute、acc.g)、Martin Barre(ele.g)、Doane Perry(ds)、Andrew Giddings(key)にDave PeggとSteve Baileyとでベースを分け合っている。全編、幽玄ささえ醸しだすIan Andersonのフルートとアコースティック・ギターが前面に押し出され大活躍する。Jethro Tullの面目躍如である。表題曲の"Roots to Branches"はどこかIron Maidenの"To Tame a Land"あたりの叙情性に近い感覚を受けるように、全体的にヘヴィーメタルな音楽的語彙が隠し味程度にそこかしこに隠されている。ある意味、サウンドの逆輸入だろうか。"Rare and Precious Chain"は中近東風なメロディーが印象的。"Dangerous Veils"の後半はジャジーなソロ回しが聴ける。最後のMartin Barreのギターソロとバックで鳴るAndrew Giddingsのハモンド・オルガンのサウンドが良い。また"Stuck in the August Rain"の広がりのあるサウンドと繊細な世界観のマッチングが非常に美しい。名盤。
J-Tull Dot Com ('99)ベースに元Take ThatでMartin Barreのソロ作にも参加したJonathan Noyceが加入。アルバムの表題通り、歌詞にインターネット・ネタを散りばめ現代的なモチーフを扱った内容に仕上げている感がある。表題曲の"Dot Com"ではPage Plantの"No Quarter / Unledded"プロジェクトの"Battle of Evermore"に参加したNajma Akhtarをバッキング・ヴォーカルに起用。Andrew Goddingsのキーボードが二胡風の旋律を奏でており中国風なエキゾチックな感じに仕上がっている。"Nothing @ All"はAndrew Goddingsによる短いピアノ・ソロ。"Hot Mango Flush"はMartin BarreとIan Andersonによる共作曲で、変わった展開が聴き所の作品。ヘヴィーな"El Niño"からIan Andersonのフルートにオーケストレーションを添えた"Black Mamba"から"Mango Surprise"("Hot Mango Flush"のリプライズ)という流れは興味深い。"The Dog-Ear Years"はIan Andersonの優しさを湛えたヴォーカルとフルートをフィーチャーしたフォーキーで秀逸な曲。"A Gift of Roses"はAndrew Giddingsのアコーディオンが印象的。最後に隠しトラックにIan Andersonのソロ"The Secret Language of Birds"がIan Andersonの紹介と共に入っている。


Top



inserted by FC2 system