Spock's Beard

Spock's Beard

The Light ('95)Neal Morse(vo、key,g)、Alan Morse(g、cello、key、vo)、Dave Meros(b、horn)、Nick D'Virgilio(ds、vo)という編成で制作された米西海岸を代表するプログレバンドSpock's Beardの1st。Ryo Okumotoも在籍はしていたが、他の仕事の為、レコーディングには不参加だった。マスタリングに兄貴分のKevin Gilbertが関わっている。各メンバー、セッション経験が豊富で、ある意味、満を持してのデビュー作、ということだろう。15分に及ぶ"The Light"(8部構成)、"Go the Way You Go"(12分)、当時、物議を醸したコントラバーシャルなセクション"FU"を含む"The Water"(23分)。最後に"On the Edge"で締め括られる構成。翌年2ndと共に出た日本盤には"The Doorway Part II"のライブがボーナストラックとして収められていた。表題曲では雰囲気のあるピアノで導かれる"The Dream"で始まり、ヘビーメタリックなギターとエフェクトをかけたヴォーカルがウネリを上げ、叫ぶ中、ゴキゲンなスパニッシュセクションを挟んで、シリアスなシンフォへ移行すると畳み掛けるように終盤の"The Dream"へと輪廻のように収束していく展開はモダンなプログレバンドの王道のような曲。特に"I am Rock 'N Roll! I am Classical、Country、and Soul!!!"と叫ぶ様は正にNeal Morse自身のルーツをはっきりと表明していると同時にいみじくもプログレのルーツもはっきりと表している。そして、大曲"The Water"ではAlan Morseのチェロが非常に効果的に鳴る中、"Introduction/The Water"が始まる。"When It All Goes to Hell"や"A Theif in the Night"での女性スキャットの使い方は、ゴスペル、というかPink Floyd風。これも1つのプログレ印、という事だろうか。そして問題の中指を突付ける、アメリカなら言葉を使っているからという理由だけで18禁指定になってしまうセクションから、一転してコーラスで"I'm Sorry"と入れる様は一歩間違えるとギャグなんだけど、先の女性コーラスを入れたりして、何とかシリアスに踏み止まっている。そしてPink Floyd鼓動サウンドを持つ"The Water"へと戻り、軽快なジャジーなセクション"Runnin' the Race"からエンディング"Reach for the Sky"へと。アルバムを締め括るのは個人的には後の方向性を示唆すると思う隠れた名曲"On the Edge"。先達の語彙を巧みに取り入れながら現代的にアップデートさせた今作は既にこの時点で大物の風格を持っている。"The Light"中の"One Man"を除き全てNeal Morseによる作詞作曲となっている。
Beware of Darkness ('96)このアルバムから専任キーボーディストRyo Okumotoが参加。1曲目の表題曲はGeorge Harrisonのカバー("All Things must Pass"収録)なのだが、冒頭のイントロのインド風味やゴスペルタッチの女性コーラスからLeon Russellバージョン("Leon Russell and the Shelter People"収録)を下敷きにしたのも頷ける。エフェクトをかけたボーカルがLeon Russellとは違った手法でその迫力に迫っている。Chris Squire的ベースサウンドも特徴的。"Beware of Darkness"を収めたこの2枚はロック愛好家には大名盤なので、一聴をお勧めする。そしてGentle Giant的展開を持つ"Thoughts"へと続く。更にアコースティックピアノ、アコースティックギター(California Guitar TrioとかRobert Frippのギタークラフトを思い出させる)、ボーカルハーモニーを効果的に配した名曲"The Doorway"。アコースティックギターの小曲"Chatauqua"を挟んで、ドラマティックな"Walking on the Wind"、ハードな"Waste Away"へと続く。最後はプログレファンなら誰しもニヤリとさせられるオープニングを持つ"Time has Come"で締め括られている。尚、Kevin Gilbertが"Thoughts"、"Walking on the Wind"、"Time has Come"でミキシングを担当。Kevin Gilbertは、この年5月に急逝されている。もしも、この人が今でも存命なら、西海岸のプログレシーンは現在のものとは違ったことだろう、と思うと非常に残念。日本盤には"On the Edge"のライブがボーナストラックとして付いている。
The Kindness of Strangers ('97)円熟味が増してきた3rd。メンバーは前作と同様。Alan Morseによるチェロが奏でる重厚でしっとりとしたオープニングで始まる。全体的にアコースティックの比率が上がったのが特徴だろうか。その為、非凡なメロディーセンスが爆発。ヴォーカルハーモニーの妙技もあちこちで楽しめる。ある意味、大陸的でおおらかなアメリカンロック的なアプローチが大きくフィーチャーされるも、決して大味にならずに丁寧に音を紡いでいるのが感じられる。冒頭と最後に3部構成の組曲を入れた作りになっているが、今までになく焦点が絞られた感がある。自身のレーベル名Radiantの由来となったであろう、"The Radiant Is"を含む"The Good don't Last"で始まり、らしい"In the Mouth of Madness"やグランジーなギターが鳴り響く"Cakewalk on Easy Street"。この曲の静と動のダイナミックスのセンスは良い。そして、アコースティックギターにヴォーカルハーモニーを最大限に活かした珠玉の名曲"June"。後半も、らしい"Strange World"から"Harm's Way"へと。最後は思い切りSteve Hackettするギターも入る"Flow"。押す所は押し、引く所は引く、という駆引き上手になってきた過渡期のアルバムかな?
Day for Night ('99)タイトルトラックのオープニングを聴くと、第1回NEARFestの最終日2日目、オオトリを務めたSpock's Beardがステージに出て来た時の感動が蘇ってくる。比較的テンションの低い東海岸の好き者をして、総立ちにさせ、叫ばせた、あの夜は何かが取り憑いていたとしか思えない。バンドも絶好調で、完成度の高いステージを披露した。得意のGentle Giant的ハーモニーを抽出したかのような"Gibberish"、シングル"Skin"、バラードの"The Distance to the Sun"からリズムが美味しいジャジーなサウンドを持つ"Crack the Big Sky"と前半の畳み掛けには息を飲む。また"The Healing Colors of Sound"から始まる後半も隙のない楽曲が並ぶ。全体的にホーンプレイヤーやストリングセクションを擁して、サウンドに幅をもたせ、アレンジも非常に練られている。アルバム最後の"My Shoes (Revisited)"が終わると、クレジットはないが、"Urban Noise"と題された1分弱のギターノイズで締め括られる。大作を排して、コンパクトにまとめたことにより、曲の焦点がはっきりし、良い意味でポップな感じを持つアルバムに仕上がった。これは名盤としか呼びようがない。
V ('00)この頃のTransAtlanticを含むSpock's Beard周辺のスケジュールの過密さを見ると、よくアルバムまで発表出来たなぁと感嘆せざるを得ない。TransAtlanticは日本では黙殺された感があるが、欧米では大きく取り上げられ、それなりの露出もあり、そういった広報活動方面でも多忙を極めたであろうことは想像に難くない。そういった環境の中で発表された本作では再びアルバムの冒頭と終わりに"At the End of the Day"(16:28)と"The Great Nothing"(27:01)という大作を配している。今まで以上に幅広い音楽性を披露しつつ、細やかな展開を気にさせないぐらい完成度が高い。"Beware of Darkness"の中の1曲"Thougthts (Part II)"を入れる等、原点回帰の趣も見られる。続く"All on a Sunday"はシングルカットもされた。欧州限定盤には、スタジオ作業の模様が見れるビデオを収録。故Kevin Gilbertのスタジオ"Lawnmower and Garden Supply"である。この映像はSpock's Beardファンならず、Kevin Gilbertファン必見。
Snow ('02)Spock's Beard初のスタジオ作2枚組はコンセプト作となった。明確なストーリーがあり(幾分、Neal Morseの個人的な宗教観が見て取れる)台詞を中心とした歌詞を持ち、何人かのキャラクターが登場するが、全てNeal Morseのボーカルによって歌われている。70年代から幾度となく多くのバンドの手によって繰り返し行われてきた作風である。コンセプト作の場合、陥りがちなのはストーリーやその風景を重視するあまり、弱い楽曲が置かれてしまう場合が多い。製作者側には大切なパートでも、聞き手にはあまりアピールしない曲も多々あるが、Spock's Beardの”Snow"はその辺りをよく理解しているのか、全ての楽曲が独立してもSpock's Beardらしい楽曲でまとめあげているのは流石。曲間をなるべく空かせず、テンポ良くストーリーが進む。この作品を最後に、Neal MorseはSpock's Beardを脱退。自身の音楽を通した宗教活動をメインにキャリアを進めて行く上で、バンドは足枷になってしまうと判断したようだ。尚、欧州盤には、"Southside of the Sky"(Yesのカバー)、アコースティックライブ3曲、デモを含むボーナスディスクが付いた。
Feel Euphoria ('03)正しく新生と呼ぶに相応しい作品を送り込んだSpock's Beard。Neal Morseの脱退により、Nick D'Virgilio(ds)がヴォーカルを兼任。Genesis好きが高じて、キャリアの進め方までそっくりになってしまったのは何かの縁か?そういえば、Nick D'Virgilio、Genesisで叩いていましたね…。そのNick D'Virgilioのヴォーカルも所々Neal Morseと発声や発音がそっくりに聴こえる場面は多い。しかし、サウンド自体に以前の面影は少ないのは、Neal Morseのソロを聴いてきた人には特に驚きに値しないだろう。逆に言えば、これが本来のSpock's Beardのサウンドかとも取れる。それだけ音そのものが伸び伸びとしたものに感じられる。Ryo Okumotoの多彩なキーボードサウンドを筆頭にAlan Morseのギターサウンド等にバンドとしての一体感を伺わせる。6つのパートからなる大作"A Guy Named Sid"も今までの流れとは全く異なるタイプの楽曲。欧州限定盤にはボーナストラック2曲を含めたボックス仕様となっている。
Octane ('05)オープニングのRyo Okumotoのメロトロンに70年代Genesisが蘇ったかのような気品を感じる。アルバムは7曲11のパートを持つ場面展開が激しい組曲"A Flash before My Eyes"で始まる。最初の歌いだしで状況説明が歌われ、車の事故で死にゆく人が過去を振り返るというストーリーはJohn Boegehold(映画音楽などを手掛けている)によって書かれている。歌詞を追うと場面展開の必要性も見えてくる。"Surfing Down the Avalanche"のヘヴィネスから"She is Everything"の美しさ、キャッチーな"Climbing Up That Hill"への展開は強引ながら歌詞という軸と、Ryo Okumotoのサウンド、John Boegeholdのアンビエンスとサウンド担当という音楽面での軸で纏め上げられている。後半、Nick D'Virgilioによるインスト曲"NWC"は攻撃的なキーボード・サウンドと印象的なループで始まる。声質はNeal Morseに似ているNick D'Virgilioだが、言葉の切り方などは全く違い以前とは違う歌メロを提供している。更にバンドとしての一体感を推し進め前作より飛躍した感を受ける。それぞれのアレンジされたサウンドにきちんと意味を持たせた秀作。ボーナス・ディスクには"A Flash before My Eyes"のストリングス・パートやバック・ヴォーカル・パートのみを収録したトラックなどを含む8曲とメイキング・ヴィデオが収められている。
Spock's Beard ('06)バンド名をそのまま持ってきたアルバム・タイトルにバンドの意気込みを感じる。本作は最初一聴した時は地味な印象を持った。というのも、全体的にサウンドが非常にすっきりとした印象を持ったから。それは、各場面場面で打ち出すべきサウンドをしっかりと前面に出し、そのサウンドを軸に曲を引っ張る、という意図を感じる。また本作に収められているインスト曲の"Skeletons at the Feast"や組曲"As far as the Mind can See"内のインスト・パートなどジャズロック的な展開を見せるのはSpock's Beardにしては新機軸かもしれない(前者はちょっとThe Flower Kingsっぽくも聴こえる)。本作ではまた歌物のメロディーの出来が素晴らしく(Neal Morse色を払拭した、という意味でも)特に"With Your Kiss"や4つのパートからなる組曲"As Far as the Mind can See"のナンバーは出色の出来。ハードでグルーヴのある"Wherever You Stand"には日本語の罵声が入っているのも面白い。組曲はYes的なサウンドから主旋律が登場し、ジャジーなインタープレイを聴かせる2ndパート"Here's a Man"へと移る。そして、ダイナミックでキャッチーな"They Know We Know"ではホーン、コーラス、ストリングスと贅沢なサウンドで奏でられている。最後の"Stream of Unconsciousness"で主旋律に戻り大団円を迎える。この組曲の後に"Rearranged"が来るのは曲の出来が言いだけにどうかと思う。ちょっとボーナストラック的に聴こえてしまう。
X ('10)前作と打って変わって仰々しいシンフォニックなオープニングを持つ"Edge of the In-Between"から入る。ある種、「シンフォニック・ロック宣言」的な「どうだ!」と言わんばかりのオープニングは流石の貫禄。"The Emperor's Clothes"は歌詞の内容もアレンジなどBeatles的なお遊びを感じさせる秀曲。"Kamikaze"はRyo Okumotoによるキーボード・センターのインスト曲。Keith Emersonばりの力強さを感じる。4つのセクションを持つ"From the Darkness"は静と動を持つ抒情詩的なスケールの大きさを持つ。Dave MerosのベースがどんどんバキバキとChris Squireなサウンドになっていく"The Quiet House"。"Their Names Escape Me"は限定盤のみに入っているボーナス・トラック。ブックレットに書かれているデラックス版を購入した人物の名前を歌詞の中に入れて歌い上げる、という面白いトラック。最後の"Jaws of Heaven"も4つセクションからなる大作。前作のある種ストリップダウンさせたサウンドを構築した後に計算された装飾を施した作風が素晴らしい秀作。
Brief Nocturned and Dreamless Sleep" ('13)11年3月、Spock's Beardは夏フェスを回るため、当時カナダでCirque du Soleil(シルク・ドゥ・ソレイユ)のハウス・バンドに参加していたNick D'Virgilioの代わりにEnchantのヴォーカルTed Leonardを起用。同年11月、Nick D'VirgilioがSpock's Beardを脱退。Ted Leonardが正式加入。ツアー・ドラマーとしてSpock's Beardを支えていたJimmy Keeganが正ドラマーとなる。そして12年12月、Indiegogoというクラウドファンディング・サイトを通じて本作の制作が始まる(前作「X」も同様にプレ・オーダーを募って制作された)。オープニングを飾る"Hiding Out"と後にプロモーション・ヴィデオが制作される"Submarged"はTed Leonardが持ち込んだ曲(後者のオリジナルはTed Leonardのソロ作「Way Home」に収録)。流麗なキーボードのイントロからブルージーな喉を披露するTed Leonard。前者の歌詞から何となく創世記のアダムとイヴの話を思わせる。後者の"Submarged"はTed LeonardがSpock's Beardに持ち込んだ新機軸と言っても良いだろう。Ted LeonardのソロよりもAlan Morseのギターによってこの曲の持つグルーヴがより高められている。Ted Leonardというソングライターの紹介を終えると、疾走感溢れる"I Know Your Secret"へと雪崩れ込む。"Afterthoughts"はAlan Morse、Neal MorseとTed Leonardによる"Thoughts"シリーズ(Neal Morseによると既にパート5まであるらしい)。お得意のGentle Giant的なハーモニーやAlan Morseのギターが絡む様は圧巻。Neal Morseは本編最後の"Waiting for Me"でも作曲、ギターで参加。ストリングスにCraig Eastmanも"Waiting for Me"に参加。徐々に盛り上げていく構成は白眉。太いChris SquireばりのDave Merosのベースが印象的。Alan Morseの天を駆けるようなギターもSteve Howeを思わせる。聞き込めば聞き込むほど味が染みだす名作。ボーナス・ディスクにはJohn Boegehold(「Feel Euphoria」から作曲などでSpock's Beardの作品に携わっている)作による"Something Very Strange"のSanctified Remisバージョンやへヴィな"The Man You're Afraid You Are"、ブルージーなTed Leonardの喉を堪能出来る"Down a Burning Road"、へヴィなサイケポップ感を持つ"Wish I were Here"、そして限定盤にのみ収録されたインスト曲(John Boegehold作)"Postcards from Perdition"が収録されている。


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