Marillion



Marillion

h期からはこちら。それ以前のFish期はこちらを参照。

"Season's End" ('89)マネージメントとの確執によってMarillionを離れたFishの代わる新しいシンガーを探しながら制作されたアルバム。その為、新しいシンガーがどれだけ歌詞を書けるか判らない為、元The PiranhasのJohn Halmerに作詞を任せ作業を始めた。オーディションを経て元The Europeans、How We LiveのSteve Hogarthを新ヴォーカリストとして迎える。Fishと全く違うテイストを持ったドライで哀愁を帯びたSteve Hogarthの声質は更にMarillionをより多くのオーディエンスにアピールする力を持ったと言えよう。そんな新生Marillionのオープニング・トラック"The King of Sunset Town"は4th of June、and the square becomes a battlefield、before the 27th cameと同年6月9日に起きた天安門事件をモチーフにJohn Helmerの歌詞をSteve Hogarthによって書き加えられている(27thは戦車部隊の第27部隊を指す)。Marillionを代表するアイルランドへの情景をのせたラブ・ソング"Easter"と"The Space"はSteve Hogarthが持ち込んだ曲。前者での扇情的なSteve Rotheryのギターソロは白眉。後者はColin Woore、Fergus Harper、Geoff Dugmoreの名前がクレジットされている事からSteve Hogarthが以前に在籍していたThe Europeans時代からアイディアが温められていた曲だと思われる。また"Holloway Girl"のHollowayはイズリントンにある女性刑務所に収監されていたJudith Wardをモチーフに書かれた曲。"Berlin"は本作が発表された時はまだ東西ドイツを隔てる壁が残っていた時。Phil Toddのサックスが印象的。この曲は99年に発表された"Clutcing at Straws"の再発2枚組のボーナス・ディスクに収められている"Story from a Thin Wall"でデモが聴ける(因みに歌詞は後にFishの"Family Business"に転用されている)。他にもシングルとなった"The Uninvited Guest"のB面に収められていた"The Bell in the Sea"も同様に"Shadows on the Barley"で、"The King of Sunset Town"は"Sunset Hill"で、"Easter"のB面に収められた"The Release"は"Tic-Tac-Toe"で"After Me"は"Voice in the Crowd"(こちらの歌詞はFishの"Virgil"などに転用されている)で、Fishバージョンが聴けるので、"Clutching at Straws"の2枚組と本作を聴き比べてみるのも一興。また本作からアートワークがBill SmithスタジオのCarl Gloverが担当する事になり、今までのMark Wilkinsonのイラストとの差別化を図っている。
Holidays in Eden" ('91)プロデューサーにMike & the Mechanicsなどで有名なChristopher Neilを起用。前作の路線を更に推し進めた方向性になっているが、今作では更にSteve Hogarthの持つ叙情性がMarillion(特にSteve Rothery)の持つ叙情性が重なり、素晴らしい相乗効果を持たせている傑作。オープニングの"Splintering Heart"からドラマティックなサウンドを展開する。1stシングルとなる"Cover My Eyes (Pain and Heaven)"はSteve Hogarthが在籍していたHow We Liveの"Simon's Car"を改作したもの。同様にHow We Liveの唯一のアルバムのタイトルとなった"Dry Land"もHow We Live時代の曲。"The Party"はタイトルや歌詞の持つ世界観とサウンドの叙情性のギャップが楽しめるストーリーのある佳曲。"No One Can"は2ndシングルとなったキャッチーなラブ・ソング。タイトル・トラックとなった"Holidays in Eden"の歌詞はJohn Helmerによるもの。ハードなナンバーでMark Kellyのオルガン系サウンドがウネリを加える。コーラスはやはりMike & the Mechanicsみたいな所が無きにしも非ず。"This Town"は疾走感のあるハードロック・ナンバー。続くように始まる"The Rakes Progress"。興味深いのはSteve Hogarthを抜いたSteve Rothery、Mark Kelly、Pete Trewavas、Ian Mosleyで書かれた本曲は同名オペラにストラヴィンスキーが書いた「放蕩者のなりゆき」がある。「放蕩者のなりゆき」はWilliam Hogarthが描いた8枚の絵画からなる(特に「放蕩三昧」と呼ばれる版画絵はCaravanの"Waterloo Lily"に使われいてるのでも有名)。"Assassing"のフレーズっぽいのが聴こえるのは気のせいだろうか?そして"100 Nights"とトリロジーっぽい作りになっている。本作にてSteve HogarthとMarillionの持つ方向性が完全に一致した昇華されたことによって出来上がった名作。
"Brave" ('94)Marillionにとって本作が大切なのは、何よりもバンド名義のリハーサル・スタジオRacket1が完成し、初めてここで作業が行われたことにある。バンドはいつも通り、John Helmerと作業を開始し"Runaway"を制作、そして"Living with a Big Lie"、"The Great Escape"、"The Hollow Man"と書き進めていく内にSteve Hogarthはラジオで聞いた事件(イングランドとウェールズを結ぶセヴァーン橋で全く話すことの出来ない若い女性を警察が保護した)を元にコンセプトを作り上げることを思いつく。バンドは"Fugazi"のプロデューサーを務めたDave Meeganと共に当時Marillionのアメリカでの配給元だったI.R.S.レコードの社長Miles Copeland(The PoliceのStewart Copelandの実兄)が所有していたフランスの古城でレコーディングを行う。プロデューサーのDave Meeganは城のいたるところにマイクをセッティングし、サウンドのみならず本作のバックグラウンドとなる雰囲気そのものを取り込む事に成功している。"Paper Lie"の最後の水に飛び込む音などはここで録音されたもの。アルバムはまず事件の始まりである"Bridge"から始まる。"Living with the Big Lie"では出生から、既に人生に疲れ果てたかのような人生の矛盾に悩み、慣れろ、慣れろと自分に言い聞かせる様が聴こえる。"Runaway"では父親から性的暴行を受ける少女が家から逃げては、家へと連れ帰される。"Goodbye to All That"の歌詞とメロディーは"Bridge"から直接続く構成になっている。心を閉ざしたはずの少女の心にざわめく波のように過去がフラッシュバックしてくる"Wave"、ドラックによる錯乱した精神状態を表した"Mad"、"The Opium Den"、そして日本語(ミキシングを行なったParr Street Studioの日系受付嬢によるもの)で「何かを感じまるで、息を止めて、それが分かったら、それでいいの、慣れるのよ」と少女が囁き、"Slide"、そして"Standing in the Swing"で無為な時間を過ごす警察にもっと重要な事件が起きているのに、と心の呟きが聴こえる。このメドレーでは少女の心情を表現しているSteve Rotheryのギターの真骨頂が聴ける。"Hard as Love"でも矢張り虐待に諦める少女が読み取れる。"The Hollow Man"はそういった経験から全ての感覚を失い、空っぽになっていく。"Alone Again in the Lap of Luxury"で彼女の両親などの家庭環境が描かれており、性的虐待から彼女を遠ざける家庭事情が描かれる。続く"Paper Lie"は輪転機が回る音が始まるように新聞などのメディアに対する不信が描かれている。"Brave"ではTony HalliganによるUilleann Pipeが鳴り響くオープニングから始まり、雄大さを感じる。Liverpool Philharmonicのチェロ、フルートの音をバックグラウンドとなる橋渡しをして"Goodbye to All That"のリプライズ的な"The Great Espace"へと。"The Last of You"は最後に再び父親に強く問いかける少女の言葉から、死を望む"Fallin' from the Moon"へと続く。"Fallin' from the Moon"のオーケストレーションはDarryl Way(元Curved Air、Ian MosleyとはDarryl Way's Wolfで一緒だった)が担当。そして再びオープニングで聞こえたような波の音を経て"Made Again"が始まる。"new morning"、"new world"と歌われているが、再生というよりはここまでの苦しみを描いた先は矢張り死の向こう側ではないか、と思わされる。穏やかで優しさのあるSteve Rotheryのアコースティック・ギターとSteve Hogarthの声からMark Kellyのシンセが包み込み、Pete TrewavasとIan Mosleyのリズム隊が参加し、傷ついたストーリーを癒していくような印象を受ける。因みにジャケットに書かれている文章はアンネ・フランクの1944年7月15日の日記のオリジナルをコピーしたもののよう。
"Afraid of Sunlight" ('95)前作と同様プロデューサーにDave Meeganを迎え、本作はいよいよMarillionが持つリハーサル・スタジオを移転させ作ったレコーディング・スタジオThe Racket Clubにて制作されたアルバム第1弾となる。オープニングにボクシングの試合前の中継のような様子からJohn Lennonのドキュメンタリー・ドラマの1部が冒頭に使われている"Gazpacho"。Gazpachoとはスペイン料理のトマトベースの冷製スープ。マーティン・スコセッシ監督の「レイジング・ブル」から着想を得たという。キャッチーながら「彼女のベルサーチのスカーフについているシミは本当にガズパッチョなのかい?(それとも本当の血?)」と問う。曲の最後に入るヘリコプターの音はO.J.Simpson事件のカーチェイスの時の模様。The Beach Boysの"California Girls"のフレーズを前後に挟んだ"Cannibal Surf Babe"はまさにBrian Wilsonに捧げられたものだろう。浮遊感漂うテルミン風の効果音や疾走感あるPete Trewavasのベース・ラインの躍動感も素晴らしい。Marillion風サイケ・ポップ・サーフ・ミュージック。そしてMarillionを代表するラブ・バラードの一つとなった"Beautiful"から"Afarid of Sunrise"へと続く。"Afraid of Sunrise"はタイトル・トラックの"Afarid of Sunlight"との組み合わせというか、長尺曲を二つに切って曲順を入れ替えたような構成となっている("Afarid of Sunlight"の後に"Afraid of Sunrsie"を聞くと分かりやすい)。叙情的なフルートっぽい音(シンセ?)など効果的に使われている。"Out of This World"は英国の冒険家(?)Donald Campbell(スピード狂とも呼べ、陸水両方のスピード記録保持者)についての曲。この曲を聴いたプロ・ダイバーがDonald Campbellが乗っていたコニストン湖に沈んでいたBluebird号を01年に自身が潜って引き上げている(現場にはSteve HogarthとSteve Rotheryも立ち会ったそうだ)。こんなテーマであっても、あくまでも幻想的にしっとりと仕上げるあたりが非常にMarillionらしい。"Beyond You"は非常に面白い試みで、本曲はモノラルで録音されていて、Phil Spectorの「Wall of Sound」への憧憬のよう。グランジのようなサウンドの"King"はオープニングのSEからも判るようにElvis Presleyをメイン・モチーフにした作品。全体的に英雄と呼ばれる人達の栄光と廃頽のようなコンセプトを持たせたアルバムと言えるかもしれない。そして何よりも多様な音楽的アイディアを詰め込んだバンドの姿勢が素晴らしい名作。



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