Pain of Salvation

Entropia ('97) Daniel Gildenlow(vo、g)率いる新世代ヘヴィーメタルバンドの1st。弟のKristoffer Gildenlöw(b、vo)、Johan Langell(ds、vo)、Fredrik Hermansson(key)、Daniel Magdic(g、vo)からなる。スローなパートで顕著なDaniel GildenlöwのGeoff Tateを思わせるヴォーカル(+デスヴォイス系雄叫び有り)、硬質なギターサウンド、チョッパー等を駆使するベース、反面ドラムはジャストですね。記念すべき1曲目は"! (Foreword)"とあるように(!マークはどういう意味なんだろ?)、序文。つまり"Entropia"本編へ入る前の誘いである。そして、物語を紡いで行くように多彩なキャラクターを見せるDaniel Gildenlowのヴォーカルからシアトリカルなグループである事が判る。マーチングドラムに導かれて始まる"Stress"の展開の激しいテンポチェンジやスティールドラムのようなサウンド、"To the End"で出てくる短いジャズセクションを挿入するなど、飛び道具の引き出しも多く、アイディアは豊富なのだが、まだ馴染みきっていない印象もある。伝統と新興、そのお互いがせめぎ合い、目まぐるしく場面展開を繰広げる。水と油のように分離している状態だが、その同居の仕方は未完ながら他に類いを見ない。
One Hour by the Concrete Lake ('99) Daniel Magdicに代わりJohan Hallgren(g)が参加した2nd。このアルバムはDaniel Gildenlöwがヨーテボリ大学で核物理やピースワークという組織に関しての勉強をした事が下地となっているようで、Daniel Gildenlwo自身が書いたエッセイ(小論文)"Waterwar"と連動した作品であることが伺える極めて社会的ステートメントを伴ったアルバムと言えるだろう。Pain of Salvationはその雛形を既に1stにて確立してしまった感があるが、今作では更にシェイプアップし、焦点を絞り込んだように聞こえる。相変わらず、目紛しく場面が展開していくが、それでも一つ一つの音に存在感が増しているのが判る。全11曲だが、最後の曲"Inside Out"のランニングタイムは6:37とあるが、海(?)のSEが延々と続いた後、小曲が登場する。エンジニアとしてJonas Reingoldが参加。Katarina Ahlenというチェロプレイヤーが参加している。
The Perfect Element Part 1 ('00) 前作と同じラインナップによる3rd。タイトルを見れば判るように、コンセプト作の前半部分となっている。ライナーによると、内容は幼少期、青年期にまつわるコンセプトを持たせている。その中でも特に個とは何か?という命題が強いようだ。個を形成するにあたっての、社会性、教育に焦点を当てた「教養小説」(buildungsroman)でもあるという。誰かの一生を描いたようなバイオ的な小説ではないけれど、憐みや感情を共有できる人はきっと何かしら繋がりを持てるだろう、と。こういった題材をテーマに持ってくる、という事であれば、ある意味、Pain of Salvationが一般的にプログレ・メタルと呼ばれるフォーマットで自身の感情を表すのも当然のことかもしれない。Daniel Gildenlöwのヴォーカルは更に聞きやすくなってきたように思える。デス系の雄叫びを控え、もっと丁寧で緻密な表現方法を採っているようにも思える。○×風というのが思い起こさせるのも、Pain of Salvationがどこから来たのか、という出自を明確に表しているのに他ならない。緊張感の高いオープニングから"In the Flesh"、"Song for the Innocent"のような世界観は素晴らしい。そして、何よりも、まだまだ青さはあるんだけど、泣きのギターインスト"Falling"のような曲が入っているのが嬉しい。
Remedy Lane ('02) またしても複雑なストーリーを持たせた作品を出してきたPain of Salvation。Daniel Gildenlöwにとって、このバンドは常にある種のコンセプトを持たせ、それを音楽を通して具現化させるグループ、という位置付けなのだろう。音を聴く限り、メロディーの質がどんどん向上している印象は受ける。シアトリカルなヴォーカルは以前のままだが、音そのものが必要以上にシアトリカルでなくなってきて、曲そのものが独立しても、違和感がない状態にはなってきた、という印象。但し、コンセプト有きなので、アルバムの全体像が見えにくいのが難点。各曲の持つ際立ったパート、パートの秀逸さはいつも楽しめるだけに残念。さて、このアルバムでは、時間と場所を各曲に明記したものになっている。これが時系列に並んだところで、意味があるのかないのか…。それを見つけるのは各リスナーに任せられるということだろう。歌詞と連動させて聴く音楽となっている。そういう意味ではオペラ的。
Be ('04) 一聴して、今までで一番難解な作品なのではないだろうか、と思える作品。その理由として、アルバム総体としての完成度が高い為、アルバムに収められている曲が単一として独立出来ないのではないか?と思えたため。しかし、聴き進めれば、オーケストレーションや"Pluvius Aestivus"でのピアノの美しさに息を呑む場面が多いのも確か。"Imago"や"Nauticus"の持つプリミティブな鼓動や過去への望郷とも取れるサウンドはDaneil Gildenlowの持つ歴史観等の現われだろうか。そして独特のグルーヴを持つミニストーリー的な"Dea Pecuniae"。現代と神を鋭く描いた"Vocari Dei"のバックグラウンドの情景の豊かさとメッセージの落差がショッキングでさえある(ただ、日本語を入れたかったのであれば、日本人を使えば良かったのに…)。後半、"Latericius Valete"以降に従来のPain of Salvationのサウンドが詰まっているように聴こえる。それでも、この作品は、アルバムとして聴かせる事に意義があるように思える。それ故に重いのは致し方ないことだろうか。この作品にはPain of Salvationが持つ美意識が強く根付いている。美しい作品と言わざるを得ない作品。
Scarsick ('07) 社会派としてならすPain of Salvationの6作目はアメリカを徹底的に揶揄する内容となっている。ことの始まりはGeorge W.Bushの外国人旅行者に対する指紋捺印制度などに端を発しており、それ以来、Pain of Salvationは米国ツアーをボイコットしている。本作もインスピレーションとなったのはGeorge W.Bushその人とのクレジットがある。その名もズバリの"America"や"Disco Queen"をはじめ、"Spitfall"のラップ風ヴォーカルや米国音楽業界への歌詞など大国への警鐘的なものを感じる。音楽性はコンセプトゆえにか、今までになく直截的でダイレクト。バンジョーの鳴る"America"やディスコそのものの"Disco Queen"といったところから、おふざけ的な印象を持つ向きもあるかもしれない。本作はアナログのようにA面、B面と分かれており"Kingdom of Loss"からB面となっている。これも製作上の意図が当然あるだろう。このB面はサウンド的にQueensrycheの"Rage for Order"を思い出してしまった。本作ではKristoffer Gildenlöwが脱退、不参加。4人体制で製作されている。
Linoleum ('09) ドラマーに元ZubrowskaのLéo Margaritを迎え製作された表題曲をリーダートラックとする先行シングル。輸入盤のBonus Track B(詳しくはこちら)で話されているように本編(Road Salt OneとTwo)となる後のアルバムを代表される4曲が収められているらしい。リーダートラックの"Linoleum"はアルバム"Road Salt One"に収められていたが、他のトラックが"Road Salt Two"に収められるかは不明。全体的にブルージーな要素を持ったヘヴィーメタル、といった趣の曲が並ぶ。但し、良くも悪くも、Pain of Salvationというグループはグルーヴを出さないので、それほどブルージーにもならない。低音が強調されたヘヴィーな音像が印象的。ツアーに参加したPer Scelanderが"Morta Grind"でベースを担当。またScoprionsのど演歌メタル"Yellow Raven"をカヴァーしている。
Road Salt One - Ivory ('10) いきなりQueenなコーラスとBrain Mayバリのギターオーケストレーションを持つ"What She Means to Me"(限定盤のみに収録)で始まるのに驚く。無茶苦茶ヘヴィーなBeatlesという感じの"No Way"にはJonas Reingold(The Flower KingsやKarmakanicで活動する)がベースで参加。まるで嫉妬に狂った男の様子を歌ったかのような歌詞が強烈。"She Likes to Hide"はDaniel Gildenlöw一人が作ってしまったブルージーな曲。ストリングスを配し、抑えがたい感情を上手く表現したヴォーカルを持つ"Sisters"の歌詞や世界観は秀逸。ロマンティックな関係になりたいけど、一歩手前でその感情を押し殺す男の心情がよく出ている。"Of Dust"はどこかMagnumにも通じる勇壮さを感じるハーモニーが印象的。"Tell Me You don't Know"はアコースティック・ブルーズ。猥雑なワルツといった趣の"Sleeping under the Stars"は歌詞もギャグっぽい。スピード感のある"Curiosity"のサウンドは一聴するとタイコの音が軽めでパンクっぽい疾走感を感じる。表題曲である"Road Salt"もDaniel Gildenlöwが一人で製作したしっとりとしたバラード曲。"Innocence"はヘヴィーでうねるように絡みつくギターが印象的。少しLed Zeppelin的なものを感じなくない。ベースはGustaf Hielm。


 

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