Too many puppies Primus

Primus

実はこのバンドを知ったのはつい最近。思い入れという部分では、他の所よりも最も薄いかもしれない。それでも…それでも、こうして一つのセクションを作ってみたいなぁと思わせられただけのインパクトを持つグループでもあるのですよ。このバンドは沢山のヒントを持っている。

Frizzle Fry('90)ライブ盤"Suck on This"をリリース後、出された1st。最初に出たライブ盤に殆どの楽曲が収められていたので、ある意味、安心感のある1stであったみたいだ。所謂ミクスチャー系に分類される、その音像は、ヘヴィーなグルーヴに時にクランチーなギターが被さり、Les Claypoolの爬虫類系のヴォーカルと奇妙奇天烈な歌詞が叫ばれる。"You can't Kill Michael Malloy"ではThe Spent PoetsのMatt Winegarが客演(短いトラックだけど)。02年の再発版では、The Residentsの"Hello Skinny / Constantinople"(オリジナルは86年に出された日本でのライブ盤に収録されている)をボーナストラックに足している。ジャケットになるクレイアートもこのグループの一つの顔となる。
Sailing the Seas of Cheese ('91)Les Claypool(b、vo)、Larry LaLonde(g)、Tim "Herb" Alexander(ds)のトリオによる2ndでメジャーデビュー作。コントラバスの響きの中からLes Claypoolのどこかコミカルで漫画的なヴォーカルが聴こえる(ピーウィーとかオール阪神とかコメディアンみたい)。そんな声質がもしかしたら、シリアスなロックファンに受けが悪いのかな?とも思う。"Sgt.Baker"等ではミクスチャー系ロックに多い所謂合の手ヴォーカルを多用。聴き方によっては、サウンドとヴォーカルのコール&レスポンスとも取れる。"Jerry was a Race Car Driver"でのLes Claypoolのベースは非常にパーカッシブでTony Levin(King Crimson)のプレイの影響が見える。Larry LaLondeのプレイは、ノイジーなギターで縦横無尽に音空間を奔放に駆け回る。最後の"Los Bastard"にはドラムにBrain Mantia、Mike Bordin(Faith No More)が加わり、ギターにMirv Haggard、初代ギタリストのTodd Huth、Derek Greenberg(The Spent Poets)、Matt Winegar(The Spent Poets)にLarry、ベースにBatthouse、Adam Gates(The Spent Poets)とLes Claypoolとまるでベイエリア・シーン総出の様相を呈している。日本盤にはボーナストラックにPeter Gabrielの"Intruder"とXTCの"Making Plans for Nigel"を追加。
Miscellaneous Debris ('92)Peter Gabrielが自身の音楽性を確立したと言っても過言ではない3rdから"Intruder"、XTCの"Making Plans for Nigel"、目玉親父で有名なマルチ・メディア・バンドThe Residentsの"Sinister Exaggerator"、The Metersの"Tippi Toes"にPink Floydの"Have a Ciger"と曲者ならぬ曲曲(漢字がダブるね…)揃い。正にPrimusというバンドの音の背景を知るに持ってこいのカヴァー・アルバムかもしれない。このアルバムでLes Claypoolはフレットレス6弦ベースを全編で使っており、独特のグルーヴを醸し出している。オープニングからしてはまり過ぎ。グルーヴ、ノイズと全て得意分野が揃っている選曲。少しスピードアップしてパンキッシュな感じが増したXTC、"Duck Stab"アルバムからの"Sinister Exaggerator"の独特の毒気も似たもの同士ならでは。オリジナルが持つスペーシーな感じもギターのノイズで上手く出ている感じが良い。The Metersの"Tippi Toes"やPink Floyd随一のグルーヴィーなナンバーを選ぶところも流石。
Pork Soda ('93)もうタイトルからして何を言わんか、である。"Pork Soda"…。どんなんだ?!?!ジャケットのクレイアートにはソーダの中で溺れているように見える豚…。これが、Primusのユーモア、と言われたら、そうだ、としか答えようがない。Les Claypoolの歌詞も聞き取りにくいところもあるものの("The Ol' Diamondback Sturgeon"なんて何を言ってるかさっぱりだ…)、ある種独特の演劇性や風刺なども強いのだろう。ただ、それ以上にファニー…。Les Claypoolのリードベースは更に磨きがかかり、Larry LaLondeの独特の隙間のあるプレイは音像を際立たせている。そして、所謂Red期のKing CrimsonのRobert FrippのプレイやHamburger Train"で聴けるような咆哮型ギターノイズはAdrian Belew等を想起させる。こういったKing Crimson的な要素はミクスチャー系と呼ばれるロックバンドに総じて言えることのような気がする。トリオ編成で、独特の癖を持ちつつも、新しい要素をアルバムに加えながら、強力でしなやかなグルーヴを提供している。そのグルーヴがまた気持ちが良い。"Suck on This"に収録されていた"The Pressman"のスタジオ版が収録されている。"Mr.Krinkle"では、エレクトリック・コントラバス?弓と弦を使ってノイズを引き出しているのが聴こえる。
Tales from the Punchbowl ('95)まるでRushのライブ盤"Show of Hands"を思わせるサーカスのオープニングのようなSEから始まるのは偶然ではないよね(調べてみたら94年に一緒にツアーしているし)。全体的にこのアルバムで聴けるPrimus節である独特なグルーヴに変化が聴ける。もっとスクウェアなグルーヴ。ある意味、ロック的でタイトなグルーヴに変わったことで、Larry LaLondeのギターもスペースを得てノイズを叩き込む様はKing Crimson的なものを感じる。またドゥーミーささえ漂わせる象にプロペラを付けて飛ばす"Southbound Pachyderm"は秀逸。特に後ろでノイジーなソロを披露するLarry LaLondeのプレイは聴き逃してはいけない、と思う。やはり、Frank Zappa?"Hellbound 17 1/2"は集大成的というかサウンドの寄せ集め、というか…。聴き慣れたフレーズで構成されているよう(だから、Theme fromなのかな?)。バキバキ言うベース・サウンドは相変わらずなんだけど、余韻を持たせない分、きっとスクウェアに聴こえるのだろう。極力シンバルなどを省くTim Alexanderのドラム・ワークも秀逸。この後、Tim Alexanderはバンドを離れることに。
Brown Album ('97)Bryan "Brain" Mantiaがドラムを担当してから初めてのアルバム。更に硬質なグルーヴを推し進めた感を受ける(Les Claypoolのプレイ・スタイルによるものだろう)。また、アレンジも更にシンプルになった印象。その代わりインパクトも強く感じる。アルバム・タイトルは明らかにBeatlesの"White Album"からの影響なのだろう。確かにそれに見合うだけの多彩さは癖の強いPrimusにあって持ち合わせているように聴こえる。冒頭のアジテーションのようなヴォーカルを持った"The Return of Sathington Wiloughby"、"Money"あたりを思い起こさせる"Fisticuffs"、Primusらしいグルーヴを持つ"Golden Boy"、強力なベースリフを持った1stシングル"Shake Hands with Beef"やドラムイントロからザクザクと切り込むLarry LaLondeのギターが気持ち良い"Camelback Cinema"、カントリーっぽいサウンドを持つ(バンジョー?)"Hats Off"、"Bob's Party Time Lounge"はタイトル通りのジャイヴ&ジャンプのようなノリの良さ。スピーディーなギターリフで始まる勢いのある"Coddingtown"、"Kalamazoo"はいきなり、Glenn Miller Orchestraへのトリビュートで驚いた。この曲の元ネタは"I Got a Gal in Kalamazoo"(今時、あんな駄洒落のような歌詞とかないってば)。更には42年の映画"Orchestra Wives"もお勧め。非常に聴き所満載なアルバム。
Rhinoplasty ('98)"Rhinoplasty"ってタイトルからして謎(プチ整形?)なカヴァー・アルバム第2弾。まずはXTCの"Scissor Man"(79年のDrums and Wiresに収録)、Peter Gabrielの"The Family and the Fishing Net"(通称"Security"に収録)、76年Stanley Clarkeの"Journey to Love"からスクラッチ・ノイズを入れた"Silly Putty"が選ばれたのにも驚いたが、それもLes Claypoolのベース・プレイヤーとしての資質を考えると、ある意味納得。カントリーの大御所Jerry Reedの"Amos Moses"(71年の再リリースの際8位のヒットを記録)、そしてThe Policeのインスト曲"Behind My Camel"("Zenyatta Mondatta"に収録)。自作曲の"Too Many Puppies"を挟みMetalicaの"The Thing that should not Be"("Master of Puppets"より)と正にカントリーからヘヴィー・メタルまでカヴァーしてしまう。その広さが正しくPrimusたる所以であり、現代のプログレシッブ・ロック・バンドたる所以でもあろう。ボーナス・トラックに"Tommy the Cat"と"Bob's Party Time Lounge"のライブ映像付き。
Antipop ('99)"Antipop"と名付けられたアルバムの冒頭がメロトロンのSEというのが、なるほど、と思わせる。全編に渡り、今までで最もグルーヴ感の薄い作品のように感じる本作はゲストと複数のプロデューサーを起用して制作されている。"Electric Uncle Sam"、"Mama didn't Raise No Fool"、"Power Mad"ではRage Against MachineのTom Morelloをギターとプロデューサーに、アニメTVシリーズSouth Parkの製作者Matt Stoneをプロデューサーに起用した"Natural Joe"は以前バンドがSouth Parkに曲を提供した絡みだろう。"Lacquer Head"はLimp BizkitのFred Durstがプロデュースを担当、Pink Floyd的な世界感があるオープニングを持つ"Electric Electric"ではFaith No MoreのJim MartinとMetallicaのJames Hetfieldがギターで参加、Stewart Copelandがプロデュースを担当した"Dirty Drowning Man"ではMartina Topley-Birdがヴォーカルで参加、そして、最後の"Coattails of a Dead Man"はTom Waitsがプロデュースのみならずヴォーカル、メロトロンで、またMartina Topley-Birdがヴォーカルで参加。その他の中東的なフレーズが聴こえる"Greet the Sacred Cow"、"The Ballad of Bodacious"、"The Final Voyage of the Liquid Sky"はプロデュースも含めてバンドのみの名義。こういった曲では流石に「らしい」グルーヴが渦巻く。複数のプロデューサー陣や多彩なゲスト陣を迎えても、バンドのサウンドそのものはぶれることはない。Primusらしいグルーヴが希薄なものの全くない訳でもなく、興味深いことにあちこちにプログレッシブ・ロック的な語彙が散りばめられているのが印象的。最後の"Coattails of a Dead Man"が終わってから約1分後に"The Heckler"のスタジオ・バージョンが始まる。


Solo & Related Works

Les Claypool Tim Alexander

Top



inserted by FC2 system