Marilyn Mazur

Marilyn Mazur

Marilyn Mazur's Future Song ('92)NY生まれデンマーク育ちのMarilyn MazurがAina Kemanis(vo)、ノルウェー出身のNils Petter Molvær(trumpet)、クロアチア出身のElvira Plenar(p、key)、ノルウェー出身のAudun Kleive(ds)、Klavs Hovman(b)と組閣したFuture Songの1st。"Watersong"、"The Night"、"Ghosttheme"、"The Dreamcastle"の4部からなる"First Dream"から始まる。Nils Petter Molværのエフェクトをかけたトランペットが時にギターのようにハードに鳴り響いたり、幽玄な震えるようなサウンドを醸し出したりと大活躍。Marilyn Mazurのパーカッションの数々がサウンドに彩りを加えていく。Aina Kemanisのチャントのような声が繊細なサウンドにマッチしている。バンド名義で書かれた"Ustrøm"以外は全てMarilyn Mazurによって書かれた曲。その"Ustrøm"はAudun KleiveがキーボードをElvira Plenarと分け合い、静謐で深遠な音の中でMarilyn Mazurのパーカッションが鳴り響く。"Rainbow Birds Suite, Part Ib"からタイトル通りAina Kemanisのヴォーカルとパーカッションのみの"Aina's Travels"を挟み"Rainbow Birds Suite, part 2b"へと繋ぎ、Klavs Hovmanの太いベースとElvira Plenarのピアノが絡むさまが美しい"Well of Clouds"から"Rainbow Birds Suite, part 1a"への躍動感溢れる流れが素晴らしい。サウンド一音一音が瑞々しくもお互いが深く共鳴する音楽。
Marilyn Mazur's Future Song "Small Labyrinths" ('97)ECMから出されたFuture Song名義の2nd。今作ではHans Ulrik(sax)とEivind Aarset(g)を加えた2管体制となる。前作よりも遥かに即興性が高く個々のプレイヤーに委ねられているパートが増えているように聴こえる。それ故、個々のサウンドの躍動感が更に増している印象も受ける。Aina Kemanisの声が密やかに響く"The Dreamcather"の静謐さ、Nils Petter MolværのトランペットがまるでMile Davisを思わせる"Visions in the Wood"、そして和を感じさせる"Back to Dreamfog Mountain"の流れは本作のハイライトの一つだろう。Audun Kleive(ds)との小曲"Creature Talk"を挟んで出てくる"See There"はまるで雅楽のような煌びやかなオープニング・ノートに息を呑む。この曲ではAina Kemanisのヴォーカル(歌詞付き)入り。ちょっとファニーな感じのする小曲"Valley of Fragments"と"Enchanted Place"はFuture Song名義で書かれた曲。Marilyn Mazurはウドゥをメインに残響音に拘ったように聴こえる。後半の混沌さもこのグループが持つ一つの側面だろう。最後は"The Holey"で締めくくられる。Eivind Aarsetのノイズが大きくフィーチャーされている。ジャケットからも判るように1stとは対照的なサウンド。静を軸に丁寧に音を紡いだ作品。
Marilyn Mazur "Jordsange (Earth Song)" ('00)総数15人からなるヴォーカル・グループArs NovaにCopenhagen Art Ensemble(9人のホーンにピアノThomas Clausen、ベース、ドラムの12人)を擁したアルバム。プリミティブなコーラス・ワークから始まる"Jordsang"の躍動感が素晴らしい。ヴォーカル・ソロはAviaja Lumholt。そして"Min Verden (My World)"では静謐な喉を聴かせるArs Novaの圧倒的な存在感が凄い。"Den som Blæser ud...(He who Blows out...)"ではThomas Agergaard(ts)の静の音像の中を軽やかに流れるようなソロが印象的。同様に"Gåderne (The Mystery)"ではFlemming Agerskovのフリューゲルホーンのブローがバックに寄り添うように深遠な音世界にマッチしたサウンドを聴かせてくれる。"Uromkvæd (Primal Chorus)"では再びプリミティブで躍動感豊かなコーラス、Aviaja Lumoltのヴォイシングが響き渡る。"Gå! (Go!)"は男性コーラスを主体にした野太いヴォーカルから始まる力強い曲。"Se efter (Look)"はMarilyn Mazurのソロ。Marilyn Mazurらしい多彩なパーカッション・サウンドが堪能出来る。まるで聖歌のような"Evigheden (Eternity)"で締め括られる。歌詞は全てJan Garbarekの奥様Vigdis Garbarekによるもの。本作もまた人の本能的な深い部分に訴えてくるサウンド。名作。
Marilyn Mazur's Future Song "Daylight Stories" ('04)Aina Kemanis(vo)、Hans Ulrik(sax, flute)、Elvind Aarset(g)、Elvira Plenar(p、synth)、Klavs Hovman(b)、Audun Kleive(ds)、Marilyn Mazur(perc.)からなるFuture Songの3rd。作曲は基本的に全てMarilyn Mazurによるもの。今作では再びHans Ulrikの一管体制となる。時にノイジーに切り込んでくるElvind Aaarsetのギターが瑞々しく清冽なAina Kemanisの声やHans Ulrikの管と相対するように鳴るのが興味深い。インスト曲"Insist"ではタイトル通り奏者の個性が強く打ち出されているように聴こえる。そしてそれはお互いにスペースを作りながらお互いを場を与えているような感じを受ける。"Malibalo"もタイトル通りマリンバの音が出てくるが、これもMarilyn Mazurによるものだろうか?"Subway Groove"はKlavs HovmanやElvira Plenarのシンセが織り成すグルーヴがアーバンな味付けを持つ力強いナンバー。ここでもElvind Aarsetのギターが活躍する。"Søspejlet"のイントロのピアノは当然Elvira Plenar作曲。どこまでも深く深遠で静謐な世界が垣間見れる。Klavs HovmanとMarilyn Mazurの共作"Animal Picnic"は2分にも満たない小曲ながら勢いのある前半のジャズロックなサウンドから即興へと移行する。"Return"というタイトルは意味深なプリミティブなドラムが打ち鳴らされるオープニングからレゲエ調なリズムにAina Kemanisの美しい伸びのある声が乗る。本作でも凛とした美しさを随所に聴かせてくれる名盤に仕上がっている。


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Miles Davis
"Aura" ('89)
Miles Davisについて何か語ろうなんざ、それこそ1億年も早い私ではありますが。でも、これは本当に素晴らしい盤。北欧ジャズロックの名盤。というのも、作曲、プロデュースがPalle Mikkelborg。Niels-Henning Orsted Pedersen(b)やBjarne Roupe(g)、Thomas Clausen(key)やKenneth Knudsen(key 元Secret Oyster)、Bo Stief(b 元Midnight Sun等)、Marilyn Mazur(perc.)等のデンマーク人脈の名前がずらりと並ぶ。当然、John McLaughlin(g)等もいる。やはりECM等を思い起こさせる静謐さを持ちつつも、冷めた刃のようなギターが切り込み、アンサンブルの妙に心が熱くなる。調べてみると、非常に面白い盤である事が判った。まず、この"Aura"なる曲はMiles Davisがかの地コペンでSonning Music Prizeを受賞した84年に録音されている。冒頭"Intro"のJohn McLaughlinの10の音がテーマ(主題)となり、コードを形成している。その10音はM-I-L-E-S D-A-V-I-Sを表しているという。"Yellow"は同じ主題をオーケストラで表現したもの。最初はオーボエとハープを使い、後半からスケールの大きなオーケストラ・サウンドに埋め尽くされる。エレクトリック・ドラムが印象的なジャズ・ロック"Orange"からMiles Davisのソロが印象的な"Red"はMiles Davisがとても気に入ったのか、ミュートを効かせたエレクトリック・バージョン"Electric Red"も録音している。"Indigo"ではMiles DavisはThomas Cluasenが十分表現しているとして、プレイはしていないが、この曲を気に入ったので、収録されることになったのだそう。そして、このセッションでMarilyn Mazurと出会ったのも後のMiles Davisの活動にとって大事件であったであろう。エンディングの"Violet"ではストラヴィンスキーやメシアンへのトリビュートにもなっているという。余談ながら、Miles Davisにメシアンを教えたのは、このPalle Mikkelborgという。CD化に際して"Indigo"のオープニングに5秒のブラス・セクションが足されている。激しくも美しい作品。


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