Mule

Gov't Mule

89年、Allman Brothers Bandの再編に伴ってWarren Hayes(g、vo)とAllen Woody(b)が参加。Matt Abts(ds)は88年に元Allman Brothers BandのDickey Betts Bandの"Pattern Disruptive"に参加。この3人が終結し、ヘヴィなブルーズ・ロック・バンドを結成。

Gov't Mule ('95)特徴のあるしゃがれ声のWarren Hayesのアカペラから始まる"Grinnin' in Your Face"(ブルーズ・マンSon Houseのオリジナルも手拍子と歌のみ)を導入部に、"Mother Earth"へと続く。しゃがれ声ながら、意外と伸びやかに出る歌声は、個性的で一聴してそれと判る個性的なもの。そういう意味ではアカペラから始める、というのは非常に上手いやり方だろう。Freeの"Mr.Big"をカヴァーしており、基本路線としては、そのヘヴィーなブルーズ・ロック路線なのだが、Gov't Muleというバンドが一筋縄でいかないのは、インスト曲"Trane"と呼ばれるヘヴィなジャズ・ロックとでも呼べるジャム・ロック路線を持っていること。またインドっぽいアコースティック・サウンドが美しい小曲"Dolphineus"が清涼剤のような役割を持つ。"for FZ"という副題を持つ"Left Coast Groovies"はヘヴィー・ブルーズ・ロック・バンドにしては珍しく、Frank Zappaへの敬愛を示したもの。そのアレンジやちょっと人をおちょくった歌詞や、時折入る変なサウンドは確かにそうかも。John Popper(Blues Travellor)が"Mule"で、Hook Herreraが"Left Coast Groovies"でハーモニカを披露している。
Dose ('98)Warren Hayes(vo、g、marching bass drum 7)、Allan Woody(b、ele.mandolin 11、dulcimer 10、prima;バラライカの一種 7)、Matt Abts(ds、djembe 10、ashiko;アフリカン・パーカッションの一種 10)と前作よりもサウンドに幅をもたせている。Gov't Muleらしいヘヴィで力強い"Blind Man in the Dark"から豪快でグイグイと引っ張っていくナンバーが目白押し。"Thelonius Beck"、"Birth of the Mule"はインスト・ナンバー。特に後者はジャジーなプレイをたっぷりと収めた秀逸な曲。"Towering Fool"はスロー・ブルーズなバラード曲。"John the Revelator"はゴスペル・ソングのカヴァーからBeatlesのド・ヘヴィな"She Said、She Said"へと続く。後半はこの頃のBeatlesへのトリビュートっぽいサイケデリックな展開で畳み掛ける。"Raven Black Night"はアコースティック・ギターをメインにダルシマー等を使用し、フォーキーな味わいも持たせる(Gov't Mule風Battle of Evermoreだろうか?)佳曲。
Life before Insanity ('00)全曲オリジナルで勝負した3rd。前2作やライブで自身の幅広いルーツをカヴァーという形で披露し続けたトリオが全てを呑み込んで吐き出した作品。生々しくもブルージーなハードロックを母体に円熟味のあるサウンドを聴かせる。ハーモニカ・プレイヤーHook Herreraが"Bad Little Doggie"、"I Think You Know what I Mean"で参加。レイドバックした"Lay Your Burden Down"にBen Harperがヴォーカルとラップ・スティールで、Johnny Neel(元Allman Brothers Band)がオルガンで参加。Johnny Neelは"Fallen Down"、"World Gone Wild"にも参加。特に後者は現代に蘇ったGov't Mule版"Mr.Big"の如きヘヴィなあのグルーヴを持つ。"Tastes like Wine"はWarren Haynesのアコースティック・ギターが印象的なバラード曲。緊張感のあるプレイを心がけているところが流石。最後の"In My Life"が終わって1分後ぐらいにスライドが炸裂。ジャム・セッションを収録している。
The Deep End Volume 1 ('01)Allen Woodyを失ってからも勢いは止まらないWarren HayesとMatt Abtsからなら問答無用の米国産パワーデュオGov't Mule。A.Woodyの穴を12人からなるベーシスト、他13人の計25人のゲストを迎えての豪勢なスタジオ作、全13曲。いきなり冒頭の"Fool's Moon"からJack Bruceのシャウトと既に親友とでも呼べるBernie Worrellのハモンドが響き渡る、あたかもCreamが生まれ変わったがの如きの"Fool's Moon"で幕を開ける。元Cry of Love、The Black CrowesのAudley Freed(g)とのギターバトルが聴ける"Life on the Outside"はSly & the Family StoneのLarry Grahamがヴォーカル、ベースを担当。ホーン入りのJames Brownカヴァー"Down and Out in New York City"はFlea(Red Hot Chilli Peppers)がベース、Creedence Clearwater Revivalの"Effigy"ではAlice in ChainsのJerry CantrellがリードヴォーカルをWarren Hayesと分け合い、そしてDeep Purpleの"Maybe I'm a Leo"ではRoger Glover(b)が参加。カヴァー3連チャンの後はJohn Entwistle(The Who)を迎えた"Same Price"(Mike Abtsのドラムは正にKeith Moonへのトリビュート)と続く。インスト"Sco-Mule"はJohn Scofield(g)とChris Wood(b、Medeski Martin Wood)入り(ベタ過ぎですが)。Oteil Burbridge(b)、Greg Allman(vo、organ)、Derek Trucks(slide)とAllman Brothersファミリー参加のブルージーなバラード"Worried Down with the Blues"、Dave Matthews BandのStefan Lessard(b)が入った"Beautifully Broken"、バキバキ言わせるファンキーな"Tear Me Down"はBootsy Collins(b、vo)、Bernie Worrell(organ)の最強タッグ。Allen Woodyのテイク"Sin's a Good Man's Brother"はGrand Funk Railroadの"Closer to Home"のオープニング曲。その他にMike Gordon(b、Phish)等が参加。
The Deep End Volume 2 ('02)Jason Newsted(Echobrain、元Metallica)が参加した"Trying Not to Fall"から幕を開ける。Les Claypool(Primus)らしいサウンドが展開される"Greasy Granny's Gopher Gravy Part1"と"Part2"、Rocco Prestia(Tower of Power)が参加したTower of Powerのカヴァー"What is Hip?"、ヘヴィ・ロック・ヴァージョンに仕上がったThe Staple Singersの"(It Takes More than) Hammer and Nails"にはMeshell Ndgeocello(b)とJohn Medeski(organ)が参加。インスト"Sun Dance"にはYesのChris Squireが参加。らしいフレーズが満載なところがサービス精神が旺盛なのが窺える。トラッド曲"Catfish Blues"にはBand of GypsysのBilly Cox(b)とBernie Worrell(organ)が参加。アルバム本編を締め括る"Babylon Turnpike"はAlphonso Johnsonがアップライトを持ってJohnny Neelのピアノがサウンドに華を添えるしっとりとしたムードのあるジャジーなインスト曲。その他にTony Levin(b)、Jack Casady(b 元Jefferson Airplane)、Chuck Leavell(organ)、Pete Sears(p 元Jefferson Starship)、Phil Lesh(b Grateful Dead)、Disc2にはJames Hetfieldがヴォーカルで参加した"Drivin' Rain"(ベースはLes Claypool)に"Rocking Horse"(Allman Brothers Bandのカヴァー)と"Lay Your Burden Down"のライブが2曲。DJ Logicのリミックスによる"Sco-Mule"。ロック界広しと言えども、ここまで華々しく送られるAllen Woodyは幸せ者だろう。素晴らしい追悼盤である。そしてこのThe Deep Endシリーズはこのライブ盤で締め括られることとなる。
Deja Voodoo ('05)Gov't Muleは89年からAllman Brothers Bandに参加しバンドを立て直した立役者Warren Haynes(vo、g)が同じくAllmanにいたAllen Woody(b)とMatt Abts(ds)とで興したバンド。00年にAllen Woodyを失った後、ゲストプレイヤーを多く迎えGov't Muleは自身と仲間たちとロックのみならず、ありとあらゆる音楽の饗宴を楽しんだ。そして、Danny Louis(key)とAndy Hess(b)を新たに迎え、新しいGov't Muleがここに誕生する。豪放なハード・グルーヴィンなトリオというイメージにオルガンやローズを主体にグルーヴを足していくDanny Louisのサウンドで更に構築美を増した感を受ける。ある種、古き良きブリティッシュ・ロック的なサウンドを思い出させる。しゃがれ声のWarren Haynesの声質には好き嫌いが分かれるかもしれないが、実に安定したエモーショナルなヴォーカルを披露する人。アメリカ産らしいR&Bやゴスペル、Black SabbathやDeep Purpleのようなクラシック・ロック等様々な影響を素直に置き換えるミュージシャン。今作のDanny LouisのプレイもJon Lordバリのオルガンが聴ける。冒頭の"Bad Man Walking"からグルーヴィーなブギーが心地よい。圧巻はやはり10分以上に及ぶ"Silent Scream"の情感だろう。静のオープニングから一転してハードなセクションへと雪崩れ込み、更にエモーショナルなギターソロを中心としたジャムっぽい後半部とロックの魅力が詰まった素晴らしい曲。その他にもスピーディーで強力なロック・チューン"Mr.Man"、カントリーっぽいフレーヴァーもあるロッカバラードの"Wine and Blood"等、聴き所満載なアルバム。シカゴでのライブを収めたボーナス・ディスク入りもあるので、そちらを強く勧めておきます。
High & Mighty ('06)前作と同じ布陣のカルテットで製作された6thアルバム。疾走感のある"Mr.High & Mighty"から幕を開ける。アコースティック・ギターの響きが印象的な力強い"So Weak, So Strong"や"Child of the Earth"といったスロー・ナンバーでの世界観が素晴らしい。"Unring the Bell"はGov't Mule風ヘヴィ・レゲエ・ナンバー(共同プロデューサーにBig SugarのGordie Johnsonを迎えたのはこんなところから来たのかもしれない)。"A Million Miles from Yesterday" は女性コーラスを配したブルーズ・ロック。スライドが炸裂する"Brighter Days"と桂曲が目白押し。ボーナス・トラックにAndy Hessのアコースティック・ベースで始まるインスト・ナンバー"3 String George"が入っている。身体に染み付いたブルージーなサウンドがそのまま素直に表現された土着な音。故に隙のないロックがここにある。
By a Thread ('09)08年秋のツアーから参加したJorgen Carlsson(b)を擁しての初めてのアルバム。挨拶代わりのオープニングのベースラインのずっしりとした重さが本作の作風を物語っている。そのオープニングの"Broke Down on the Brazos"ではZZ TopのBilly Gibbons(g)が参加。"Steppin' Lightly"はここ最近ハマッテいるレゲエを取り入れたヘヴィなナンバー。バンジョー風のサウンドが聴こえる軽快な"Railroad Boy"からGov't Muleの幅広い音楽性の魅力をたっぷりと詰め込んだ"Monday Mourning Meltdown"へと雪崩れ込む。スペーシーなDanny Louisのキーボードが素晴らしい。アコースティック・ギターとストリングを取り入れた"Forevermore"では情感たっぷりに歌い上げるWarren Haynesのヴォーカル・パフォーマンスが哀愁を感じさせる。"Scenes from a Troubled Mind"と最後の"World Wake Up"ではAndy Hessがベースを担当。ジャム・バンドらしいグルーヴが復活した桂作。このグルーヴは特にJimi Hendrixを強く意識させるように聴こえる。


Warren Haynes

Tales of Ordinary Madness ('93)Gov't Mule前夜、プロデューサーに元The Allman Brothers BandのChuck Leavellを迎えてのソロ・アルバム。後のGov't Muleで聴ける豪放でハード・ドライヴィングなブルージーなハードロックが聴ける。特有のダミ声ながらしっかりとメロディーを持つ声はどこか若々しいJoe Cocker、という感じだろうか。女性ヴォーカルを加えた曲もあり、ソウルフルでゴスペル・タッチの雰囲気を醸し出す瞬間もある。Elton JohnやPaul McCartneyとの仕事で知られる英国出身のSteve Holly(ds)、カントリー系のセッションが多いMichael Rhodes(b)やGreg Morrow(ds)、Lincoln Schleifer(b)などが参加。The Allman Brothers BandからMarc Quinones(perc.)、Johnny Neel(B-3 organ)が参加。Bernie Warrellが"Invisible"と"Power and Glory"でオルガンとクラヴィネットで華を添えている。何よりもヴォーカリストとしてのWarren Haynesが楽しめるアルバムかもしれない。因みにアルバム・タイトルはチャールズ・ブロウスキーの短編集「ありきたりの狂気の物語」から。
Man in Motion ('11)スタイリッシュに決めたジャケットはどこか場違いな感じを受けなくもないが、ソウル/ファンク色が前面に出たWarren Haynesのソロ第2弾。何とStaxからのリリース(納得)。脇を固めるのはGeorge Porter, Jr.(b)にIvan Neville(organ、clavinet、wurlitzer)、Raymond Weber(ds)といったMeters関連、ニュー・オリンズ人脈。数々のセッションをこなしてきたRon Holloway(tenor sax)が参加。更に表題曲と"Take a Bullet"ではGrooveline Horns(Carlos Sosa, Fernando Zastillo, Reggie Watkins)が参加。"Take a Bullet"ではIan McLaganがWurlitzer、Piano、Organで、Dave Grissom(Allman Brothers Bandでツアー経験あり)がリズム・ギターを担当と、このアルバムに参加したメンバーをずらりと並べるだけでそのグルーヴあるサウンドが聴こえてきそう。特にRon Hollowayの活躍が素晴らしい。"Everyday will be like a Holiday"はWillam Bellのカヴァーと、何から何までソウル色どっぷりなアルバムに敬意を持って向き合っている。そういうロックに対する生真面目な所がWarren Haynesらしいところかもしれない。
Bernie Worrell "Improvisczario" ('07)Perliament、Funkadelicをはじめ多方面で活躍するキーボード・プレイヤー。ソロ7作目。タイトルを見て判るように即興から作り上げたインスト作品。レコーディングにDuke Ellingtonが使用したこともあるNYのEdison Studioで1週間かけて製作されている。リズム隊にWill Calhoun(ds: Living Colour)、Brett Bass(b)を起用。多分P-Funkつながりで聴くと肩透かしを喰らう。ブラシとスティックを使ったWill Calhounのドラムに清冽な(ベイビー・グランド)ピアノを聴かせるオープニングからMike Gordon(Phish)のバンジョーが縦横無尽に絡む"Up in the Hills"へと続く。Warren Haynesは"Dirt"と"Killer Mosquito"に参加。前者は粘りっこいサウンドにサイケなギターを乗せている。Brett Bassのファズをかけたベースが印象的。後者はBernie WorrellのB3オルガンのサウンドに寄り添うようにサポートするギターを聴かせる。後半のサウンドの掛け合いの盛り上がりは個人的に好き。ボトルネックを使っているのかな?アルバム最後に収めらている"Celeste"はEdison StudioにコレクションされているThelonius Monkが愛用していたセレステ・ピアノを使用した曲。このピアノを使った3曲が本作のキーとなるものかもしれない。これは名作。




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