David Cross

言わずと知れたKing Crimson唯一のヴァイオリニスト。まぁ、ライブ盤で不幸があったのは事実だけど…。

Memos from Purgatory('89) David Crossソロ名義の1st。メンバーはPete McPhail(sax、WIDI)、Sheila Maloney(key、p)、Simon Murrell(b)、Dan Maurer(ds)とほぼRadiusと近い構成。ゆえに気心の知れたメンバーであるのは明白。タイトな演奏である。冒頭の"Poppies"と最後の"Basking in the Blue"のみベースがTim Carterとなっている。前半はハードなエレクトリック・ヴァイオリンを主軸に押せ押せな楽曲が並ぶ。5曲目の"New Dawn"のみCarl Campbell's Dance Company 7のために書下ろし、演奏された曲であるため、多少、毛色の違う曲となっている。ゆったりとした、たゆたう感じが、良い意味でインタールードのような役割を持つ。後半は、同じ流れのようにセンシティブな楽曲や東洋志向を持った、舞踏曲のゆうな"Bizarre Bazaar"と続き終焉を迎える構成。アルバム・タイトルはクレジットにあるように61年に発表されたHarlan Ellisonのノンフィクションの本から。全曲インストながら、非常に歌っているアルバム。
The Big Picture ('92) 盟友Dan Maurer(ds)、Radiusでも活動を共にするSheila Maloney(key)、John Dillon(b、vo)と組んだバンド形態のアルバム。前作とは打って変わって歌物にシフトしたDavid Cross名義のソロ2作目。10曲中、インストは3曲。内"Minaret"と"Holly and Barbed Wire"にLol Coxhill等と共演経験を持つPete McPhail(sax)が参加。全体的にJohn Dillonの声を活かしたハードでありながら、時にJohn Wettonの声を思い起こさせるキャッチーな喉がマッチがしている曲が多い。"Chiristine"でのヴォーカルパフォーマンスは白眉。David Crossのプレイで特筆すべきは咆哮をあげる"Black Ice"でのパフォーマンスだろうか。インスト"Sundays"はヴィヴァルディを思わせる作風のイントロのフレーズにメロディアスな旋律が乗るムーディーなタイプの曲で、David Cross特有のメロディーが堪能出来るナンバー。全曲、バンド名義の作曲に納得出来るアンサンブルを聴かせる秀逸な出来。
Testing to Destruction ('94) 前作のバンド・メンバーに新たにPaul Clark(g)を迎えた布陣で録音された作品。今作も作曲は全てバンド名義。ギターが加わったことでハードさが増し、テクニカルな音像を持つ場面が増えたようだ。また、今作のインスト曲である"Welcome to Frisco"、"The Swing Arm Disconnects"、"Cycle Logical"、"Testing to Destruction"は93年10月ベルリンで行われたライブからの音源となっている。ノイズ、即興、反復、といったところがキーワードだろうか。勿論、David Cross Bandが持つメロディアスな部分はここでも健在。これらのライブ音源であるインストと歌物のスタジオ録音との対比が今作の最大の聴き物だろう。歌物では、トライバルで「脈動」を思わせるDan Maurerのドラムに導かれてヴォーカルが乗る、アルバム最後を飾る12分にも及ぶ"Abo"の世界観は素晴らしい。因みにジャケットはJohn Dillonの手によるもの。
Exiles ('97) ハードエッジなアルバムを立て続けに製作してきたDavid Crossが、十分に時間をかけ、熟考を重ねて出された作品、というイメージを持つ。冒頭を飾るのは表題曲である"Exiles"。King Crimsonのカバー。盟友Dan Maurer(ds)に前作から参加しているPaul Clark(g)に更にPeter Claridge(g)とギターを重ね、Mick Paul(b)にDave Kendal(key)。ヴォーカルは当然John Wettonその人。新しい魅力を纏った逸品。続く"Tonk"ではオープニングから、それと判るギターを響かせるのはRobert Fripp。Peter Hammillのパンキッシュで力強い声と相まって、90年代型King Crimsonさえ思い起こさせる。Pete McPhailのサックスが印象的なスピーディーなインスト・ナンバー"Slippy Slide"の次に今作のハイライトであり、今作の核となる曲が2曲続く。まずはRobert FrippとDavid Crossの2人だけによるサウンドスケープ型インスト曲"Duo"。繊細でありながら、少しずつ確かめるように近づくお互いのサウンドが琴線に触れるように響く。更にDavid Cross作曲、Pete Sinfield作詞による名曲"This is Your Life"。歌詞によるマジックと相まって、John Wettonのヴォーカルも情感豊かで繊細な秀逸な仕上がり。雄大さを持ちながらも肌理の細かい演奏も素晴らしい。続くインスト"Fast"はDavid Crossのソロ作ではお手の物のタイプのハードエッジで緊張感のあるナンバー。Paul ClarkのギターとDavid Crossの掛け合いが素晴らしい。再びPeter Hammillのヴォーカルを擁した"Troppo"ではPeter ClaridgeとRobert Frippがギターを担当。こちらもKing Crimsonを強く意識させるかのようなRobert Frippの咆哮ギターが炸裂する(聴き慣れたテーマも聴こえる)。Pete McPhailのサックスから始まるインスト"Hero"を挟んで、再びRobert FrippとDavid Cross2人による即興曲"Cakes"が始まる。David Crossが自身のキャリアを振り返るが如く旧友を交えてつつも、ここ数年の自身の流れから逸れることなく自身を見つめた結果が傑作へと繋がった作品。因みに次回再発の動きとかがある時は是非にでも、この日本盤オリジナル・アートワークでお願いしたいもの(あれでは幾らなんでも購買意欲が殺がれる)。
Closer than Skin ('05) 8年ぶりのソロ作。今作でもバンド形態にこだわった作品となっている。David Cross(ele.violin、key)、Mick Paul(b)、Paul Clark(g)、Arch Stanton(vo)、Lloyd(ds)という編成。歌詞は全てKing Crimson時代の盟友Richard Palmer-James。曲はDavid CrossとMick Paulによる共作。ヴォーカルのArch Stantonは芸名らしく現在はJonathan Caseyを名乗っている。バンド編成に拘ったまとまりの良いプレイが全編で聴ける。Zetaの特徴的なヴァイオリン・サウンドはサウンドが下品に広がり過ぎず聴いていて安心感がある。ミッドレンジ中心のArch Stantonのヴォーカルも表情が豊かというほどではないにしろ、安定感がある(その分、演奏が非常に雄弁でもある)。Mick Paulは"Awful Love"と"Tell Me Your Name"で"Larks' Tongues in Aspic Part2"のリフを挿入。このバンドの持つエネルギーが同質のものという表れだろうか?どの曲にもキャッチーで親しみやすいパートが用意されている。特に"Counting"の3重に重ねられたヴォーカル・パフォーマンス、メロディアスなギター・フレーズといった世界観が素晴らしい。続く"I Buy Silence"の東洋的な情緒からヘヴィーなサウンドへと流れ込む様や、"Over Your Shoulder"のアラビックなパートと飽きさせない工夫が随所に折り込まれている。惜しむべきはやはりジャケットか…。
David Cross & Naomi Maki "Electric Chamber Music Unbounded" ('06) David Cross(ele.violin)とNaomi Maki(p、voice)の2人による作品。全7曲2人による作曲とあるが、一発録りっぽいサウンドのせいか即興的にも聴こえる。全体的に空間が感じられるサウンド。Naomi MakiのスキャットのようなヴォイスはリリカルなDavid CrossのヴァイオリンとNaomi Makiのピアノに更に深みを加えている。David Crossのリリカルな側面を前面に押し出した作風。"Electric Chamber Music"というのもシリーズ名らしいので、これからの進化も楽しみなシリーズとなるかもしれない。
David Cross and Andrew Keeling "Electric Chamber Music Vol.2 English Sun" ('09) David Cross(ele viln)とAndrew Keeling(flute)による即興を主体とした作品。とはいえ、非常に構築性が高く楽曲としての完成度が高いように思える。"Dido"は賛美歌のような叙情性と持つ(うっすらとオルガンっぽい音も聴こえる)。King Crimsonの"Trio"を思わせる"Lamentoso"。Andrew Keelingのフルートが東洋的な響きを持つ"Clear Sky"と多彩な音楽性を持っている。お互いの楽器が共鳴するようにアンビエンスを大切にした作品に仕上がっている。

 

Radius and related

Radius "Elevation" ('92) Geoff Serle(dr.machine、perc.)、David Cross(violin)、Sheila Maloney(key)、Tim Crowther(g)、Simon Murrell(b)という編成のRadiusによる4thアルバム。Geoff Serleによるドラムパターンを軸に無機質なビートが全編を支配する。そんな中Geoff SerleとSheila Maloneyの作曲の"Days of Forever"の美しい旋律に息を呑む。David CrossとSheila Maloney作の"Ultramarine"は尺八のような音を取入れたRobert Frippのソロにも通じる、ゆったりとした広がりのあるサウンドスケープ・タイプの曲。続く"Sensitized / Desensitize"はTim Crowtherのギターが活躍する躍動感のある曲。Geoff SerleとDavid Cross作の"Pagoda (Jay's Tune)"もDavid Crossのヴァイオリンを効果的に使ったメロディーの美しい、広がりのあるサウンドが特徴。この3曲以外は全てバンド名義の作曲となっている。そして、最後に収められている"Sky Drive"もTim Crowther主導によるエレクトリック・ジャズの権化のような曲。キーボードやギターがまるで管のように泣いている。
Geoff Serle "Severe Test" ('93) Radiusの首謀者と目されるGeoff Serleのソロ。Geoff Serleはドラム・マシーンやプログラミング、サンプラーを主にキーボード等を使う。時にメカニカルで、メタリックなドラム・サウンドは意外と古臭くならず、そのサウンドは現在でも通用するように聴こえる。Jon Dobie(sax、g)、Mark Hewins(g)、Sheila Maloney(key)、Elliott Sharp(g)などが参加。David Crossは"Pagoda"という曲(David CrossとGeoff Serleの共作曲)で演奏を一人任されている。深遠なサウンドスケープ・タイプの曲。その他にもサウンド・スケープにアヴァンギャルドな即興ピアノをバックにフランス語の話し声みたいなのが聴こえる"Voyage"、何か茶道の日本語解説を導入部に、ブルージーなElliott Sharpのギターが印象的な"Shinjuku Switch"、表題曲の"Severe Test"はファンキーでアヴァンギャルドなMark Hewinsのギターが活躍する2曲目と最後にリプライズで戻ってくる2部構成。ソロ・アルバムらしい多彩な内容といった印象。そんな中、Geoff Serle一人で構築させた"Balance of Power"や"Delete Complete"のようなノイズが彼本来のサウンド・アプローチなのかもしれない。ある意味、非常に自由奔放にノイズが流れる、といった印象。
Geoff Serle / Radius "There is No Peace" ('95) いきなりタイトル・トラックのFallout Dubバージョンという無機質なインダストリアル・ビートっぽいサウンドに支配された曲から始まる。まるで、Geoff Serleのソロ曲のような印象を受ける。東洋的なフレーズがあちこちに挿入されている"What the Problem Is"はPILを脱退したばかりのJah Wobbleが組閣したInvaders of the Heartの1st"Without Judgement"から。こういったカヴァーがあると、このRadiusの向かうところが見え易くなる。そして、タイトル・トラックでは冒頭のFallout Dubバージョンの打ち込みを外してすっきりとさせた印象がある。Maxineのヴォーカル入り。個人的にはこういったバージョンの方が判りやすい。但し、Fallout Dubバージョンを冒頭に置いたことで、アルバムの勢いは付いたように感じる。"Air Spirals"はGeoff SerleとGraham Timbrell(synth)とPete Nettleton(g)のトリオによる演奏のようだ。Steve Topping(g)が参加した"Waterfront II"では空間を切り裂くようなオープニングから静謐なサウンドをDavid Crossが聴かせる。この曲は一つのハイライトかもしれない。そして牧歌的な雰囲気さえ纏う"Aerial View II"のオープニングとの対比も面白い。
Radius "Civilizations" ('00) 何処かで聴いたことがあるメロディアスな旋律を交えながら激しく掻き毟るようなDavid Crossらしいエレクトリック・ヴァイオリンにGeoff Serleのビートが淡々とビートを刻むオープニング"Floating"から、今度は"Tok-Sin Remix"と題された"There is No Peace"第3弾。今回はMaxine Brahamの声が乗る。スペーシーな味付けが新しい。Geoff Serleのキーボードのみの演奏の"The Prairies"と"Casale Valley"はShriekback等に参加していたCarlo Lucius Asciutti(アルバムのアートワークも手掛ける)が参加。少しIan Andersonを思わせる。"New England in the Fall"はGeoff Serleのキーボードのみで"Ebbs and Flows"はDavid Crossのエレクトリック・ヴァイオリンのみの曲。最後に18分にも及ぶ表題曲で締め括られる。機械的なノイズの中にどこか人間臭さや有機的なものを感じるのが不思議。
Dan Maurer Jim Juhn David Cross Keith Tippett
"Low Flying Aircraft" ('87)
Dan Maurer(ds)、Jim Juhn(g、b)、David Cross(violin)、Keith Tippett(p)にRon Linton(tenor sax、bass clarinet)、Eric Drew Feldman(DX7)、Paul Burwell(ds)がゲスト参加したプロジェクト盤。殆どの楽曲はDan MaurerとJim Juhnによるもので、この2人がこの盤の首謀者。煌びやかなオープニングを飾る"Sybilization"に始まり、フリーキーな管が入る"Baptism by Fire"は秀逸。"Reflection"と"What Did You Do"の2曲は4名で書かれた曲。"Reflection"は、冒頭こそ、かっちりと構成されたイントロパートを持つようだが、そこから、即興パートへと向かう。こういった即興性の高いトラックでは、Keith Tippet、David Cross組の主役を喰うほどの尖がり具合が光る。"What Did You Do"の方は、この盤で随一、グルーヴの強い曲。こちらは、Jim JuhnとDan Maurerのしなやかなリズム隊が強烈な魅力を放つ。個人的名盤である。

 

King Crimson
Larks' Tongues in Aspic ('73) 70年代、King Crimsonが1stから追求してきたのは、「混沌の内に秘めた美」のようなものを音として顕現させることのように思える。メンバーを一新して再出発を図った、というより、メンバーが集まって出した音がKing Crimsonに相応しかった、という図式だったように記憶している。呼ばれたのは、Family時代にも声をかけられたことがあったとするJohn Wetton(b、vo)を始めBill Bruford(ds)にJamie Muir(perc.)というリズム隊にDavid Cross(violin)。歌詞担当にPete Sinfieldに代わり、John Wettonの旧知の間柄であるRobert Palmer-Jamesが呼ばれる。冒頭から、この編成でのKing Crimsonが目指すところを明確に表した"Larks' Tongues in Aspic, Part One"では、Bill BrufordとJamie Muirの絡み、Robert FrippとDavid Crossのリリカルで時に攻撃的な旋律が聴く者を圧倒する。"Book of Saturday"、"Exiles"と詩的で叙情的なナンバーにおいてでさえ、その緊張感は途切れることがない。さらに"Easy Money"でのソロの応酬は丸でPaul KossoffとAndy FraserのFree組を思い起こさせる。Robert Frippのソロは特に指向性を持たない独自な世界観を持つものが多いと思えるが、この曲にあっては、己の内面と対峙した故に出てくるブルース・ロック特有の真摯な音に聴こえる。この時期のKing Crimsonを聴くと、現在のミクスチャー系と呼ばれるロックの全てのお手本がここにあるような気がしてならない。
Starless and Bible Black ('74) Jamie Muirが抜け4人編成となった。ヴォーカル曲"The Great Deceiver"、"Lament"の2曲がスタジオで製作されたもので、"We will Let You Know"はグラスゴーでのライブ、"The Night Watch"、"Trio"、"Starless and Bible Black"と"Fracture"はアムステルダム公演(後に"The Night Watch"というライブ盤が製作される)、"The Mincer"がチューリッヒ公演にオーヴァー・ダブを加えたものとなっている。まず、冒頭の"The Great Deceiver"のオープニングで聴けるブラス・ロックのようなノイズの洪水からして驚かされる。ここだけ抜き取ったらKing Crimsonとは思えないかもしれない。正に詐欺師的なトラックか?"The Night Watch"はその名の通りレンブラントの「夜警」だろう。歌詞もそれに即した感じがする。非常にKing Crimsonらしい静の描写が秀逸なナンバー。そして続くインスト"Trio"は文字通りヴァイオリン、ベース、メロトロンによる東洋的なフレーズを盛り込んだ演奏。但し、これは前述のようにライブでの即興で、何も叩かないことを選んだBill Brufordもクレジットされている、という事実が重要だろう。"The Mincer"はRobert Palmer-Jamesのクレジットもあり、ヴォーカルも入っているが途中でぶっつりと途切れるトラックのためか、インスト扱い。そして、表題曲はDylan Thomasの詩作"Under the Milk Wood"(邦題「ミルクの森で」)から取られたフレーズ。静謐さの中に計算されたカオスが聴こえる。そして、名曲の誉れ高い"Fracture"は鬱積されたフィーリングを持続させつつも最後の最後でJohn Wettonの「ヒューッ」に、どれだけのフィーリングが込められているか表されている。いや、真面目に。
Red ('74) King Crimsonアルバム史上初のメンバーのポートレイトをあしらったジャケット。そのジャケットを見て判るように、メンバーはRobert Fripp(g、mellotron)、John Wetton(b、voice)、Bill Bruford(perc.)となっており、David Crossは先の夏まで行われていたUSツアー後に健康問題を理由に脱退している。このアルバムでは、ゲストとして参加。他にもIan McDonald(sax)、Mel Collins(sax)、Robin Miller(oboe)、Marc Charig(cornet)と言ったKing Crimson本体もしくはその周辺に所縁のあるプレイヤーを迎えている。オープニングのタイトル・トラック"Red"はこの時期のKing Crimsonを象徴するかのような完全無比なインストルメント・ナンバー。その完成された構築美は見事としか言いようがない。"Fallen Angel"はJohn Wettonの声にサックスが寄り添うように吹き流れる。中間部のRobert Frippの叙情的なソロも秀逸。そして、意外とファンキーなリズムを持つ"One More Red Nightmare"は正しく先のUSツアーの暗部を皮肉たっぷりに歌ったものだろう。続く"Providence"はまず間違いなくそのUSツアーからの即興曲の音源。タイトルからしてロード・アイランドでのライブ、ということだろう。この辺りは4枚組ライブ"The Great Deceiver"にも詳しい。最後を飾るのは稀代の名曲の誉れ高い"Starless"。この曲の持つ、冒頭からのヴォーカルパートが持つ美から、中間部での反復から破壊、そして、モダンジャズのようなサウンドを持つ再構築、という一連の流れに、このグループの完結があったのだろうか。この象徴的なハーフシャドーの撮り方や裏ジャケットに現されているレッドゾーンに針が振り切っているメーターを見て、様々な憶測も流れた。King Crimsonは本作をもって一旦その幕を閉じることとなる。

 

Others

Clearlight "Forever Blowing Bubbles" ('75) Cyrille Verdeaux(p、mellotron)率いるClearlightの2nd。1stではGong人脈を頼りにアルバムを完成させたが、2ndではフランス人脈をメインにマナースタジオで製作された。現在ではフレンチ・ジャズの大御所Francois Jeanneau(synth、flute、sax)、Bob Boisadan(ele.p、organ、synth)、Jean-Claude d'Agostini(g Emmanuel Boozとの共演等)、Christos Stapinopoulos(ds)、そしてZaoでの活躍が知られるJoel Dugrenot(b)という布陣にKing Crimsonを脱退したばかりのDavid Cross(violin)を筆頭に多数ゲストを迎える。Steve Hillageや自身のソロを持つChristian Boule(g)、Lard FreeのGilbert Artman(perc.)、Bruno Verdeaux(synth)、Brigitte Royが"Narcisse Et Goldmun"でヴォーカルを務める。Celestial ChoirのAmand and Annというのは、Amanda PersonsとAnnette Peacockかな?音楽性はスペーシーなシンフォニックを主体としたもの。ちょっと舌足らずな感じの女性ヴォーカルのイントロから、激しく切り込むギターサウンドを持つJoel Dugrenot作の"Chanson"。アコースティック・サウンドとの対比が秀逸。ヴァイオリンのフレーズがどこか東洋的に響く。更にJoel Durgrenot作の"Way"でもDavid Crossのノイジーなヴァイオリンが活躍。残りのCyrille Verdeaux作品との対比が、このアルバムをより引き締まったものに仕上げているように感じる。
Danielle Dax "Blast the Human Flower" ('90) 中近東っぽいサウンドにダンス・ビートを加えたBeatlesの"Tomorrow never Knows"のカヴァーとDanielle Daxが一人で書いた"Daisy"と"16 Candles"以外は全てDavid Knight(key、g、b)との共作。プロデュースはStephen Street(key、g、b)。更にThe Lemon Kittens時の盟友Karl Blake(g)を迎えている。その他にPeter Farrugia(g、b)が参加。後にSteve Howeのアルバムに参加するAnna Palm(violin)とDavid Cross(violin)の2名でヴァイオリンを担当。パンキッシュなアティテュードを持ったダンス・ビートを多用した作風。中近東風のリズムなどを取り入れているのが特徴だろうか。Danielle Daxのヴォーカルは愛らしく、可愛いという表現が合いそうなタイプ。強いて言えばToyah辺りにB52'sのパワーが加わったような感じだろうか?
Joel Dugrenot "Mosaiques" ('91) CDリリースが91年だが、ライナーを読むと89年リリースなど諸説があるようだ。元ZaoのベーシストでClearlightの"Forever Blowing Bubbles"にも参加していた。ソロ名義では84年に"See"というカセット・テープを発表しているらしい。本作はベーシストのソロ・アルバム、というよりは、Joel Dugrenotのコンポジション、アレンジを中心に楽しむ作品。事実ベースは3曲でのみ演奏、その他にもピアノ、ヴァイヴ、タブラ、Clavecin(ハープシーコード)などをプレイしているが、それ以上にJoel Dugrenotの人脈の豊富さを窺わせるゲスト陣が凄い。David Roseが全曲に渡りヴィオリンを弾き、Francois Jeanneauが東洋的な響きを持たせたフルートや縦横無尽に吹きまくるサックスと大活躍。Roger Deroeuxが3曲でエレピを入れている。その他にもFred Frith(g)やPierre Morlen(ds)、Nigel Morris(ds)、Marc Bonnet Maury(vln)といった名前も見える。David CrossはPegasus Dream"という欧州的な佇まいを感じさせるジャズ・フュージョン曲で参加。この曲ではJoel Dugrenotも独特なサウンドで音空間を埋めていく。アルバム最後を飾る"Sunrise Call"ではオーケストラの指揮も行っている。聴けば聴くほど発見が多い、紛れも無い名作。
久石譲 "地上の楽園"('94) 現在、日本を代表する作曲家の一人と言っても過言ではない久石譲のソロ・アルバム。詳しいクレジットはないが、ラップ・ヴォーカルが乗るファンキーな"She's Dead"の終わりにある激しいヴィオリン・ソロなどはきっとDavid Crossだろう。その他に冒頭曲の"The Dawn"ではBill Brufordがドラムを叩いている。"Hope"の歌詞とヴォーカルはBill Nelsonが担当。その他、クレジットにはEarthworksのIain BallamyやHugh Burnsといった名前もある。坂口安吾の「桜の森の満開の下」を下敷きにした"さくらが咲いたよ"などはメロディーが豊かな秀逸なヴォーカル曲。"Granada"はピアノをメインにオーケストラが荘厳さを加える曲。まるで、ミステリー・ドラマのメインテーマのよう。"The Waltz"は吉永小百合主演映画「女ざかり」のメインテーマ。ボーナストラックにNHK連続テレビ小説「ぴあの」の主題歌「ぴあの」の英語版が収められている。
Chris Stassinopoulos & Friends "Light in the Dark" ('08) 60年代後半からギリシャで活躍するドラマーChris Stassinopoulos。ライナーを読むと重鎮と呼ぶに相応しい活躍をしているよう。本作は彼自身のバンドや人脈を通して製作されたインスト作。David Crossは冒頭の"Ancient Civilization"でギターのようなノイジーなサウンドを出している(いつも使っているヴィオリンとは音が違うよう)。また"Flight of the Condor"は08年1月に収録されたライブでChris Stassinopoulosが率いるExplorer BandとHugh Hopper(b)が参加。その他にもAlex Foster(sax Jaco Pastorius等との共演あり)をフィーチャーした"Universal Harmoney"やBarry Finnerty(g Miles Davies等との共演あり)が参加した"Through the Universal Light"などのトラックも用意されている。基本的に全体的にChris Stassinopoulosのドラムとキーボード(ライブを除く)を中心にしたシンフォニックなジャズ・ロックといったところ。但し、肝心のChris Stassinopoulosのプレイが覚束ないのが困りもの。
Osanna & David Jackson "Prog Family" ('09) Lino Vairetti(vo、g)、Gennaro Barba(ds)、Fabrizio Fedele(g)、Nello D'Anna(b)、Sasà Priore(key)、Irvin Vairetti(key)に元Van Der Graaf GeneratorのDavid Jackson(sax、flute)がジョイント。ダブル・サックスをメインに荒々しいブローを全編に渡って聴かせる。本作は、Osannaの歴史を総括するかのようなセルフ・カヴァーがメイン。サントラ"Milano Calibro 9"からの3曲使用されており、アルバムの始まりと終わりにSolis String Quartetがアレンジを担当した"Tema"と"There will be Time"で押さえた構成となっている。1st"L 'Uomo"から6曲、"Palepoli"から3曲の歌パートを中心に抜粋、"Landscape of Life"、"Suddance"、"Taka Boom"から1曲ずつ選曲されている他、Città Frontaleの"Solo Uniti"とVan Der Graaf Generatorがカヴァーしていたから選ばれたであろうGeorge Martin作の"Theme One"(BBCのTop of the Popsのオープニング・テーマ)がカヴァーされている。David Crossは"‘A Zingara"で参加。オリジナルが持っていたピアノの華やかさと打って変わって、ブルージーで情感のある感じに仕上がっている。また"Il Castello Dell'es"でオリジナル・メンバーのLello Brandiがリード・ベースで参加。Presenceの女性ヴォーカリストSophya BacciniにIl Balletto di BronzoのGianni Leoneが参加。"Fuje ‘A Chistu Paese (Oro Caldo)"の後半では「鬼のパンツ」で馴染みが深いイタリア民謡の一節も飛び出す。 "Mirror Train"であまりにもバキバキいうベースが鳴ると思ったらTM Stevensだった…。オリジナルをなぞらない、新しいアレンジで聴かせるところは流石。

 

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